「DMZ(非武装地帯)ツアー」体験レポート(2024年版)

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作成日:07.01.10更新日:24.05.23
都羅(トラ)展望台からDMZと北朝鮮を望む
都羅(トラ)展望台からDMZと北朝鮮を望む
1950年に勃発した朝鮮戦争は、1953年に休戦協定が結ばれましたが、韓国と北朝鮮は70年経った現在も分断されたまま、いまだに終戦を迎えていません。

この分断の爪痕に実際に足を運ぶことができるのが「DMZツアー」。「愛の不時着」「太陽の末裔」「サーチ」など、韓国ドラマのロケ地としても度々登場する「DMZ」ですが、見学スポットはその特性上、一般人の出入りを厳しく規制しており、個人での自由見学はできません。実際の行き方として、手続きの手間やガイドの有無、アクセスの不便さなどを考慮すると、日本からの旅行者はツアーを利用するのがよいでしょう。

実際にどんなツアーなのか、日本語ガイドが同行する韓国ツアー「DMZツアー」に、コネストスタッフが参加してきました。

※記事は実際のツアー参加をもとに取材・作成したものです。
※軍事境界線という特殊地域のため、ツアースケジュールや滞在時間は変わる場合があります。
「DMZ」とは?
「Demilitarized Zone(非武装地帯)」の略。1953年の休戦協定によって韓国と北朝鮮を分かつライン、「軍事境界線(通称38度線、停戦ライン)」が定められました。この38度線から韓国と北朝鮮双方の領土に設けられた、幅2km(南北を合わせると幅4km)の無人の緩衝地帯を「DMZ」と呼びます。また「DMZ」から更に南に約5~10km下がった線までの区域を「民間人統制区域」と呼びます。

「DMZ」は双方の侵入を防ぐ目的で一面に地雷が敷設されているため、手つかずの自然が豊富にある貴重な「生物の楽園」でもあります。しかし地雷が爆発する事件や、北朝鮮による銃撃事件などが度々発生しており、依然として緊張が続いています。
DMZツアーの旅程
※クリックで移動
ツアー出発・移動
08:00~08:45
この日は朝から快晴。展望台からの眺めに期待しながら、いざ出発です。コネストスタッフは弘大入口(ホンデイック)駅前から乗車しました。駅前の大通りには、他にもDMZツアーの観光バスがたくさん。参加するツアーのバスであることをしっかり確認してから乗車します。

ツアーの韓国人ガイドさんは流ちょうな日本語で、移動中も地図や資料を活用しながら、南北分断のいきさつや北朝鮮の現状について分かりやすく説明してくれます。朝の眠気も吹き飛んでしまうほど興味深い話ばかりで、聞き逃せません。
ガイドのホン・ユソンさん(ガイドさんは日によって違う)

歴史の痛みを1つでも多く伝えたいという思いを感じる説明でした
ガイドのホン・ユソンさん(ガイドさんは日によって違う)
歴史の痛みを1つでも多く伝えたいという思いを感じる説明でした
DMZツアーのバスはたくさんあるので、乗り間違えないようナンバーを覚えておきましょう
DMZツアーのバスはたくさんあるので、乗り間違えないようナンバーを覚えておきましょう
臨津閣(イムジンガッ)国民観光地 (滞在 80分)
08:45~10:05
ソウルから1時間もしないうちに到着したのは、京畿(キョンギ)道 坡州(パジュ)市の最北にある「臨津閣国民観光地」。平和の大切さと統一の重要性を知らせるために造られた広大な公園です。

検問を受けずに一般人が「自由に行ける、北朝鮮に最も近い場所」として、気楽に訪れることができる観光地のような雰囲気です。
「平和の鐘閣」、「望拜壇(マンベダン)」
いよいよ公園の中に入って見学スタート。敷地内にはたくさんの戦跡や記念碑、建造物があります。ガイドさんがその場で一つ一つ丁寧に説明してくれるので、この場所が分断の現場であること、悲劇は今も続いていること、また人々の統一への思いなどがより強く感じられます。
ガイドさんの説明に熱心に耳を傾けるツアー参加者たち
ガイドさんの説明に熱心に耳を傾けるツアー参加者たち
統一と平和への願いを込めて

2000年に建てられた「平和の鐘閣」
統一と平和への願いを込めて
2000年に建てられた「平和の鐘閣」
北朝鮮に残された家族へ祈りを捧げる場所

「望拜壇(マンベダン)」
北朝鮮に残された家族へ祈りを捧げる場所
「望拜壇(マンベダン)」
「自由の橋」
鉄橋の「自由の橋」を望む
鉄橋の「自由の橋」を望む
続いて公園内のメインスポットである「自由の橋」へ。1953年に休戦協定が結ばれた後、1万3千人ほどの戦争捕虜たちが「自由万歳!」と叫びながら南側に渡って帰還したことが名前の由来。

当時は木造でしたが現在は鉄橋となり、北朝鮮まで続いています。私たちが実際に歩けるのは木造だった当時の橋を再現したレプリカで、そこから鉄橋を望むことができます。木造の橋には、北朝鮮で暮らす家族との再会を願う短冊が無数にかけられています。
「自由の橋」の入口
「自由の橋」の入口
南北は橋で繋がっているのに

その先に行けないという現実を突きつけられます
南北は橋で繋がっているのに
その先に行けないという現実を突きつけられます
離散家族の願いが書かれた短冊
離散家族の願いが書かれた短冊
「爆撃を受けた蒸気機関車」
次に見えてきたのは古い線路。かつてソウルと平壌(ピョンヤン)を結んでいた鉄道の線路です。駅名標には北朝鮮の開城(ケソン)工業団地がある開城まで22km、ソウルまで53kmと示されています。

その先には爆撃されてボロボロになった1両の蒸気機関車が。分断前は朝鮮半島を往来していた機関車で、戦争時は国連軍の軍需品の輸送に使われていたとのこと。

1950年、米軍部隊が南進中だった機関車を停止させ、北朝鮮軍に使用されないよう銃撃して破壊。機関車はDMZ内に半世紀以上放置されていましたが、2004年に文化財に登録され、この場所に移されました。
かつてソウルと平壌を結んでいた線路
かつてソウルと平壌を結んでいた線路
この場所がソウルより北朝鮮に

近いことを示す駅名標
この場所がソウルより北朝鮮に
近いことを示す駅名標
銃弾の跡が生々しい蒸気機関車

戦争の激しさをうかがい知ることができます
銃弾の跡が生々しい蒸気機関車
戦争の激しさをうかがい知ることができます
「臨津江(イムジンガン)スカイウォーク(トッケ橋)」
橋脚だけが残された「トッケ橋」

臨津江が流れるのどかな風景が広がり

休戦中である現実とのギャップを感じます
橋脚だけが残された「トッケ橋」
臨津江が流れるのどかな風景が広がり
休戦中である現実とのギャップを感じます
更に奥に進むと、戦争の爆撃で破壊された「トッケ橋」があります。残されていた橋脚に一部改良を施し、2016年12月「臨津江スカイウォーク」としてオープン。「トッケ橋」の銃撃の弾痕を間近で見られるほか、とうとうと流れる臨津江を一望できます。

※見学には別料金(大人:2,000ウォン、小人:1,000ウォン)が必要です。
別料金を払って橋を渡ります
別料金を払って橋を渡ります
「民間人統制ライン」

ここから先が民間人統制区域であることを示しています
「民間人統制ライン」
ここから先が民間人統制区域であることを示しています
「臨津江トッケ橋 ここは統一される日に撤去されます」

という文句が印象的
「臨津江トッケ橋 ここは統一される日に撤去されます」
という文句が印象的
銃弾の痕が赤い矢印で示されています
銃弾の痕が赤い矢印で示されています
「6.25戦争(朝鮮戦争)当時の銃弾の痕」
「6.25戦争(朝鮮戦争)当時の銃弾の痕」
ソウルから1時間もしない場所でありながら、ソウルより北朝鮮に近い「臨津閣国民観光地」。こんなに気軽に分断の現場に足を運べることに複雑な思いを抱きました。すぐ近くにいるであろう家族に会えないという現実。離散家族の人たちの思いはどれほどだろうかと、胸の痛む思いでした。
統一大橋 (検問時間 15分)
10:10~10:25
続いては北に5分ほどバスを走らせ、「南侵第3トンネル」へ。その途中、臨津江に架かる「統一大橋」を通過します。通過後は民間人統制区域となるため、橋の南端のゲートには検問所が設置されていて、許可を受けないと通過できません。

そこでバスは15分ほど停車。軍の兵士がバスに乗り込み、身分証(パスポート)を一人一人確認します。

※パスポートを必ずご用意ください。
※バスからの撮影は禁止されています。
南侵第3トンネル (滞在 70分)
10:40~11:50
記念撮影のマストスポット
記念撮影のマストスポット
統一大橋を無事に通過し、更に15分ほど移動すると、ツアーの目玉「南侵第3トンネル」に到着です。

DMZ付近には、北朝鮮が韓国に攻め入るために掘ったとされるトンネルが4つ発見されています。この「南侵第3トンネル」は脱北者が情報を伝えたとされる、1978年に発見された3番目のトンネル。

板門店の南方4km、ソウルからわずか52kmしか離れていない場所で発見されたため、かなりの脅威だったとされています。幅2m・高さ2m・全長1.6kmで、1時間あたり3万人の兵力が移動できると言われています。
徒歩観覧路の入口
徒歩観覧路の入口
球体に韓国と北朝鮮の地図が彫られたモニュメント

「私たちの手で統一を」という願いが込められています
球体に韓国と北朝鮮の地図が彫られたモニュメント
「私たちの手で統一を」という願いが込められています
実際にトンネルの中に入る前に、映像館で日本語字幕付きの映像を見たり、展示館でトンネルやDMZに関する展示を見学して、事前知識を深めます。
映像館で8分ほどの映像を鑑賞
映像館で8分ほどの映像を鑑賞
豊富な資料がある展示館の見学は20分ほど
豊富な資料がある展示館の見学は20分ほど
DMZ全域の大きなジオラマに圧倒されます
DMZ全域の大きなジオラマに圧倒されます
そしていざ、トンネルの中へ。
徒歩で地下73mの地点まで下り、足場の悪いトンネル内を腰をかがめながら、265m区間のみを見学します。そこから軍事境界線までは、わずか176m。ここからは遮断壁が設置されていて見学はできません。その先はもう北朝鮮です。

トンネル内は18℃ほどでひんやりとし、洞窟のようにゴツゴツした岩壁になっています。北朝鮮がトンネルを掘る際にダイナマイトで発破した跡や、トンネル掘削を石炭の採掘であるかのように装うため、壁に石炭を塗ったとされる跡がリアルに残されています。ガイドさんの話によれば、トンネルは他にもまだ存在する可能性があるとのこと。休戦中であることを実感せざるを得ません。

※足場が悪いため、歩きやすい服装と靴での見学をおすすめします。
※トンネル内の撮影は禁止されています。
ここからトンネルまで徒歩で下ります

携帯電話を含む荷物は全てロッカーに預けます(無料)
ここからトンネルまで徒歩で下ります
携帯電話を含む荷物は全てロッカーに預けます(無料)
足場が悪く天井も低いため

ヘルメット着用は必須
足場が悪く天井も低いため
ヘルメット着用は必須
トンネルまでの坂は急勾配のため

足腰に自信のない方はトンネル入口のベンチで

待機してもかまいません
トンネルまでの坂は急勾配のため
足腰に自信のない方はトンネル入口のベンチで
待機してもかまいません
都羅(トラ)展望台 (滞在 50分)
11:55~12:45
2018年に新設された展望台
2018年に新設された展望台
トンネル見学のあとは、韓国最北端の展望台「都羅展望台」へ。老朽化した旧展望台を通り過ぎ、新しい展望台へ5分ほど歩いて向かいます。

DMZ内にあり、DMZと北朝鮮が一望できる圧巻の眺め。建物はガラス張りで、屋内からでもDMZの自然豊かなパノラマビューが眼前に広がります。

また3階の屋外展望台には望遠鏡が数多く設置され、天気が良いと北朝鮮の街や歩く人などがよく見えます。例えば開城工業団地や宣伝村、監視塔、平和の家(南北首脳会談が行われた場所)など見るべきポイントはたくさん。是非ガイドさんに聞いてみましょう。
無料の望遠鏡がたくさん並びます

※展望台が新しくなってから写真撮影が許可されました
無料の望遠鏡がたくさん並びます
※展望台が新しくなってから写真撮影が許可されました
ガイドさんに「ハリウッドサインのようだから見て!」と呼ばれて望遠鏡を覗くと「我が国家第一主義(우리국가제일주의)」と掲げられた看板が見えました

(白いマンション群の裏山)
ガイドさんに「ハリウッドサインのようだから見て!」と呼ばれて望遠鏡を覗くと「我が国家第一主義(우리국가제일주의)」と掲げられた看板が見えました
(白いマンション群の裏山)
望遠鏡のレンズに携帯電話のレンズを密着させて撮影

中央やや下に北朝鮮の監視塔と軍人が写っています
望遠鏡のレンズに携帯電話のレンズを密着させて撮影
中央やや下に北朝鮮の監視塔と軍人が写っています
バスの出発時間まで2階のカフェでひと休み(別途料金)
バスの出発時間まで2階のカフェでひと休み(別途料金)
カフェからの眺めは

まるで大自然を独り占めしたような絶景

ここがDMZであることを忘れてしまいます
カフェからの眺めは
まるで大自然を独り占めしたような絶景
ここがDMZであることを忘れてしまいます
統一村 (滞在 15分)
13:00~13:15
統一村のフォトゾーン
統一村のフォトゾーン
ツアー最後の見学先は「統一村」。民間人統制区域の北端に位置し、休戦当時の住人とその直系子孫だけが居住を許され、現在450人ほどが暮らしている村です。

住民のほとんどは農業を営み、住宅と畑の他は小学校と教会しかありません。村は韓国軍の管理下に置かれており、夜間から早朝は外出禁止、また土地の所有権が認められていないなど、さまざまな制約があります。

統一村の特産物は、住民たちが栽培する高麗人参や長湍豆(チャンダンコン)という大豆。村の様子を車窓から眺め、15分ほど直売所に立ち寄って買い物を楽しんだあと、ソウルに戻ります。
濃厚なきなこ味のする

「長湍豆アイスクリーム」
濃厚なきなこ味のする
「長湍豆アイスクリーム」
特産物の長湍豆も購入できます
特産物の長湍豆も購入できます
ツアー終了・ソウルへ
13:15~14:30
朝早い時間からのツアーであり内容も充実していて、比較的タイトなスケジュールだったため、帰りのバスの中では、ついうとうと。あっという間にソウルの大都会に戻ってきました。これにてツアーの全日程は終了です。
終わりに
出発前はピリピリとした緊張感のあるツアーなのだろうと身構えていました。しかし実際は緊張感というより、韓国では「安全保障観光」と言われるように、今なお続く朝鮮半島の歴史の痛みをリアルに伝え、平和の大切さや統一の重要性を世界に向けて発信しようという未来志向的なメッセージを強く感じるツアーでした。

そして最も印象的だったのは、「都羅展望台」で圧倒されたDMZの美しく豊かな自然。「野生生物の宝庫」とも言われるこの自然が、分断という長い年月を経て育まれたものであるという皮肉な現実を前に、何とも言えない気持ちになりました。この美しい絶景が抱えている痛みを忘れてはいけません。

この「DMZツアー」は、分断の現実を実際に見て終わるだけでなく、その先の、これからどうしていくべきなのかについて考える貴重な機会だと思います。K-POPやショッピング、グルメなど、明るい側面の韓国も楽しいですが、こうした事実にもしっかりと目を向け、今も続く分断の歴史について考えてみることも大切なのではないでしょうか。是非このツアーで直接見て、感じてみてください。
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南北境界線を訪れるツアー
地図
掲載日
23.11.04
(更新履歴) 更新履歴を見る
・記事の一部を更新しました(20240523)
・記事を更新しました(20231102)

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