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  • 映画「ベイビー・ブローカー」で再注目、韓国の「赤ちゃんポスト」の現状とは?

  • 社会・文化 2022年06月22日 10:18
  • 韓国映画「ベイビー・ブローカー」韓国版ポスター
    韓国映画「ベイビー・ブローカー」韓国版ポスター
  • 日本でも「こうのとりのゆりかご」などの名前で知られている「赤ちゃんポスト」。

    韓国では「ベビー・ボックス(Baby Box)」と呼ばれ、韓国ではソウル市・冠岳(クァナッ)区・新林洞(シルリムドン)に位置する「主の愛(チュサラン)共同体教会」の李鐘洛(イ・ジョンナク)牧師が、ヨーロッパや日本の熊本県の慈恵病院の例を参考にしながら、2009年に国内で初めて設置したのが始まりだ。

    やむを得ない事情から赤ん坊を育てられない家庭や未婚シングルマザーらにとって、赤ん坊の命を失わずに済むといった賛成意見や、育児放棄を助長するものだという反対意見まで、賛否両論が沸き起こりながら、「ベビーボックス」は2022年時点で、以下の3か所に設置されている。

    ・主の愛共同体教会 (ソウル特別市 冠岳区 新林洞)
    ・新カナアン教会 (京畿道 軍浦市 山本洞)
    ・弘法寺 (釜山広域市 金井区 杜邱洞)

    設置後3年間は年に数件程度だったものの、2012年からは毎年200人以上が預けられるように。2012年から「ベビーボックス」利用者が急増した背景には、出生届の義務化、家庭裁判所による養子縁組許可制の導入、里親の資格審査の強化などを盛り込んだ2011年の「養子縁組特例法」の改定が影響している。

    特に未婚シングルマザーや事実婚カップルの場合、家族として法的な効力をもたないため、役所での出生届の受理が難しいほか、出産や育児の支援金をいっさい受け取ることが出来ず、経済的にやむなく「ベビー・ボックス」に預け入れなければならない選択をする人が多くなった、とされている。

    なお、「ベビー・ボックス」に預けられた赤ん坊は、警察や役所への報告・調査、健康診断などを経て、児童養護施設に入れられ、まだ出生届が出されていない赤ん坊は、養護施設で出生届が申請されることになる。

    その後の成長過程における養子縁組の条件の一つに、父母による養育権の放棄の明示が挙げられており、赤ちゃんポストに入れられた赤ん坊は、養育権の放棄の覚書がないため養子縁組が成立しづらい。そのため、ほとんどの赤ん坊が18歳まで養護施設で暮らすほかなく、施設を出た後も大学やスポーツ・芸術などの希望する分野へ進めず、成人後の職業選択の自由の幅が狭い現実がある、という。

    「主の愛共同体教会」では、赤ん坊の養育権を放棄しないよう、両親や未婚の父母と積極的にコミュニケーションをとりながら、再び家族となれる日が戻るようサポートを行っており、その様子はキリスト教系ドキュメンタリー映画「DROPBOX(ドロップボックス)」(2015年)で世界中に公開され、2020年には熊本の慈恵病院のスタッフも「主の愛共同体教会」を訪問したりもした。

    そんな中、2022年公開の是枝裕和監督の韓国映画「ベイビー・ブローカー」は、この「主の愛共同体教会」の「ベビー・ボックス」をモデルとし、赤ちゃんポストを取り上げる映画としては前述の映画に続く国内2作目。

    劇中、主人公でブローカーのサンヒョン(ソン・ガンホ)とドンス(カン・ドンウォン)は、赤ん坊の母親ソヨン(IU/イ・ジウン)に対し「これは誘拐ではない、善意だ」と主張する。未婚シングルマザーが「ベビー・ボックス」に赤ん坊を預ける事は即ち、その子は18歳まで児童養護施設で暮らし大学にも行けず、その後の人生が豊かにならない可能性が高いから、子どもが将来、幸せに暮らすためには、不法取引であれ、大学にも行かしてくれる、きちんとした家庭で育ててくれる里親に任せる方が良いのではないか?と説得するのである。

    実際には、主人公らが大金を稼ぐための方便として出る台詞だが、韓国の赤ちゃんポストの現状を表している台詞に注目してみるのはどうか?また、母親に捨てられ、児童養護施設で育ったドンスの言動にもあわせて注目してみると良いだろう。

    韓国では6月8日から公開し、日本では6月24日の封切り。
  • 映画「ベイビー・ブローカー」スチールカットより
    映画「ベイビー・ブローカー」スチールカットより
  • 映画「ベイビー・ブローカー」スチールカットより
    映画「ベイビー・ブローカー」スチールカットより