欧米やアジアをはじめ世界各国にグループ企業を展開するワコール。その韓国法人、株式会社新栄(シンニョン)ワコールで唯一の日本人として、日韓はもちろん海外との連携促進に取り組んでいらっしゃるのが永井壮一さんです。かつては縫製など製造業の中心地であり、現在は
アウトレットタウンとして知られる加山(カサン)デジタル団地にある事務所で、韓国における「ワコール」ブランド、そして日韓で異なる下着事情などについて伺いました。
名前 永井壮一(ながい そういち)
職業 株式会社新栄ワコール 専務理事
年齢 満57歳(1956年)
出身地 京都府
在韓歴 1年
経歴 1974年に株式会社ワコール入社。30年あまり販売や商品企画などに携わり、2012年4月より韓国で現職に就く。
国内営業から一転、日韓ワコールのパイプ役へ
韓国赴任の辞令を受けたのは、ちょうど1年前の2012年4月、フランス出張中のことでした。日本では販売や商品企画といった分野を担当しており、特に営業が長かったので外国とはあまり縁がなく、海外赴任も予想だにしていませんでした。アジアでは中国へ出張経験がありましたが、韓国は仕事でもプライベートでも訪れたことがなく、まったくの初めて。
韓国語も分からないまま着任しました。
同僚と一緒に
新栄(シンニョン)ワコールは、1970年に日本ワコールと韓国の新栄繊維株式会社の合弁で韓国ワコールとして設立されたのが始まりです。韓国での私の主な役割は、日本本社と新栄ワコール間のパイプ役として、情報交換を密にしたり企画交流の促進などを支援すること。また、全世界に展開する現地法人との業務連携に関する窓口も担当しています。
現在、新栄ワコールはストッキングやレースなど繊維関連のグループ会社がありますが、今後は世界各国の生産拠点を活用したり原材料の仕入れなども積極的に推進していく必要があり、そうした相互連携に関わる業務にも携わっています。
「Wacoal」=高級下着ブランド
新栄ワコールでは、高級ラインの「Wacoal(ワコール)」や中高級ラインの「VENUS(ヴィーナス)」、若者向けラインの「solb(ソルブ)」など様々なブランドを展開しています。日本ワコールはターゲット別に多くのブランドがありますが、韓国では「Wacoal」という1つの高級ブランドとして存在しているのが大きな特徴です。
また、価格面でも違いがあり、例えばブラジャーの場合、日本ワコールは大体5,500円前後の中高級下着であるのに対し、韓国ワコールは10万ウォン(約8,300円程度)以上の高価格帯商品を主に取り扱っています。そのため40~50代のセレブな女性が中心顧客層となっています。
「見せる」日本VS「秘める」韓国 下着に対する美意識の違い
レース付も基本はモールドブラ
華やかなラメ入り素材
商品化にあたっては、素材やデザインで日本の企画を取り入れたり、共通で利用できる部分を生かしたりする場合もありますが、韓国の「Wacoal」は、ほぼ100%現地化しています。その理由として、まず日韓で販売の中心となるサイズが異なることがあげられます。
日本はC70、D70がメインですが、韓国ではB70とB75が中心で、日本に比べてカップが少し小さめです。これは韓国女性のバストが必ずしも小さいというわけではなく、ブラジャーのつけ方の好みもあるかと思います。
韓国ではバストをあまり大きく見せたがらない人が多いのか、小さいサイズを選ぶ傾向にあるようです。また、体型の違いもあります。新栄ワコールが韓国女性を計測した資料でも、身長・アンダーバスト・ウエストなど全てにおける平均値が日本と異なるという結果が出ています。
見た目に関しても、日本では「見せブラ」という言葉もあるくらいですが、韓国ではアウターファッションの違いからか、そういった認識を持つ人は少ないように感じます。それはブラジャーのタイプにも表れていて、韓国はバストの丸みを美しく見せるモールドブラや、カップに継ぎ目のないシームレスブラの比率が高く、概してアウターに響きにくいブラジャーが好まれる傾向にあります。
最近は弊社でも「見せる」要素に重点を置いた商品が登場していますが、モールドタイプにレースが装飾されたものが多いです。もうひとつ、日韓で好みのテイストが異なるなと感じるのが、カラーや装飾です。日本はブラウン系やピンク系ブラックが主流なのに対し、韓国はカラーバリエーションが実に豊富。日本でおなじみのカラーでも奇抜な色合いにあっと驚かされることも少なくありません。また、キラキラした光り物やスワロフスキー付きなど派手めの商品も人気です。
「見せる」下着として表には出さないけれど、内に秘めたおしゃれ感を楽しむ。韓国では、それがひとつの高級感の表れとして支持されているのかもしれません。
ちなみに、日本未発売のオリジナルデザインも豊富な韓国「Wacoal」ですが、サイズ表示は日本ワコールと同一です。もちろん品質基準も日本と共有しているため遜色ありません。
「超カワイイ!」日本人のお客様にも人気のsolb
百貨店の下着売場
「Wacoal」は高級ブランドという位置づけから、
百貨店での販売ウェイトが高く、現在、
新世界百貨店江南(カンナム)店や
狎鴎亭(アックジョン)の
現代百貨店などほとんどの百貨店に入店しています。
店頭には時間が許す限り足を運ぶようにしていますが、男性がウロウロしているとお客様にご迷惑なので、そっと見に行くことも多いですね。売場のスタッフに商品を見せてもらったり、売れ筋を聞いて販売動向の把握に努めています。
店頭廻りで一番お気に入りのお店は、
明洞(ミョンドン)にあるsolb(ソルブ)直営店です。「solb」は20代前後がメインターゲットの中低価ブランドで、店内に「Wacoal」製品は置いていませんが、スタッフがみんな明るく元気で、客層も全く異なるため面白いです。
明洞という場所柄、旅行中に立ち寄ってくださる日本人のお客様も多いのですが、皆さん「solb」がワコールブランドとは知らずに購入されます。陰ながら見守るだけで接客ができないのがもどかしいですが、若い女性たちが「これ、超カワイイ!」と、韓国ワコールオリジナルの「solb」を手に取ってくださるのは非常にうれしいですね。
日本の下着売場は婦人・紳士が別々のフロアに分かれていますが、韓国ではブランドごとに展開する形を取っています。そのため1つの売場で男女両方の商品を取り扱っているのが特徴で、恋人同士や夫婦がペアで楽しめるカップル下着のディスプレイも韓国では一般的です。最初見たときは、とても新鮮で良いなと思いました。
明洞中心部にある「solb」
店内にはカップル下着も
流行を意識するため
色・デザインの回転が速い
ワコールグループは創業以来、女性に美しくなっていただけるものづくりをめざしてきましたが、それに携わる者として、お客様が売り場で商品を購入している姿を見るときが最もやりがいを感じます。また同時に、「次も喜んでいただけるように、もっと良いものを作っていかなければ」という思いにもさせられます。
休日は1人でソウルの街へ
盤浦大橋のみどころ、噴水ショー
週末はソウルの地理を覚えるためにも、なるべく1人で市内へ出かけるようにしています。韓国に来て1週間経った頃、ソウルいちの繁華街と聞き明洞を5時間近く歩き回ったこともありました。
最近は、自宅から自転車で
江南や
カロスキルまで行き、ぐるりと散策したりしています。ソウルでお気に入りの場所は、
漢江(ハンガン)にかかる
盤浦(バンポ)大橋です。特に
夜の噴水ショーは幻想的で、その美しさに感激してしまいます。
言葉の不明点はとことん質問
韓国語は週末に自宅で勉強することが多いですが、まだまだ流暢に話すことはできません。言語の学習というと、新栄ワコールの社長は日本ワコールとの交流を大切にしており、社内では週に2回ほど始業前の早朝に日本語の勉強会が開催されています。
韓国人の同僚には日本語を話せる人が多いですが、私と会話する際にいつも「日本語が下手で…」と皆さん一言添えられます。本来は私が韓国語で話さなければならないのにと思いつつ、日本語でコミュニケーションできることに感謝しています。
製品を媒介にした会話であれば、ある程度通じ合う部分もありますが、それでもお互いに100%理解し合うことは難しいです。仕事をする上でのカルチャーショックは特にありませんが、言語については分からないままだとかえって失礼になることもあるので、不明な点は、とことん聞くようにしています。
パートナーシップの強さ、海外に出てみて実感
ワコールグループは世界各国で事業展開しているため、グループ企業のお客様をアテンドすることも多く、その機会を通じて実感したのが、弊社グループ間のネットワークやパートナーシップの深さです。国や文化が違えど、企業理念やものづくりに対する根本的な精神がグループ内でしっかりと共有されているのです。
好みや生活習慣の違いを考慮して、その土地の女性にとってもっとも良いものを作っていく。これはものづくりの原点が共有できていなければ不可能ですし、互いの信頼関係があってこそ可能なのだということを、海外に出てみて気づかされました。
韓国のコトを探し出していきたい
中高年を中心に人気の登山
新栄ワコールでは、2013年春よりスポーツ系商材を強化しています。3月末に明洞にオープンした日本の大型スポーツ店「XEBIO(ゼビオ)」では、日本ワコールのCW-X(シーダブルエックス)という筋肉疲労を軽減するコンディショニングウェアの輸入販売をスタートしました。
野球のイチロー選手やゴルフの青木功選手などトップアスリートの皆様にもご愛用いただいている人気商品ですが、
マラソンや
登山などスポーツ人口が多い韓国でも人気を集められるのではないかと期待しています。
また、今後は、女性の社会進出がどんどん増えていく中で、これからは働く女性をターゲットにした商品企画にも力を注いでいかねばならず、キャリア層向け商品の強化にも取り組んでいくつもりです。
これからのビジネススタイルは、「ヒト(人)・モノ(物)・コト(事)」の3つを大切にしていかなければならないと思っています。
人を育て、お客様に愛されるものづくり、そして3つ目のコトというのは、その商品の目的・背景をお客様に共有していただけるようなご提案です。
韓国の人々の生活パターンやライフスタイルには何が必要とされているのか、韓国の人々にはどんなものが響くのか、という韓国ならではのコトの企画を今後はもっとしていきたいですね。
そのためには韓国の社会や文化を根底から知る必要があります。これまでに得た知識や経験、日本という異なる環境で育ってきたからこその気づきを、韓国赴任中にぜひ具現化していきたいと思います。
インタビューを終えて・・・
「50歳を過ぎて、これほど多くの経験をさせてもらえるのは幸せなことです」と、赴任から1年を振り返りながら穏やかに語ってくださった永井さん。日本、韓国を問わず、自社の商品にたっぷりの愛情を傾け、よりユーザーに寄り添った提案をしていこうとする意欲的な姿勢が印象的でした。韓国人の知人に招かれた
トルチャンチ(子どもの満1歳の誕生日を祝うパーティー)では、その盛大な雰囲気に文化の違いを感じ驚かれたそうですが、ご自身も韓国滞在歴では、ちょうどトル(満1歳)を迎えたところ。豊富な知識とご経験に韓国での体験が加わり、さらにご活躍のフィールドを広げていかれることでしょう。
株式会社新栄ワコール
1970年、「VENUS」ブランドで有名な韓国の下着メーカー新栄繊維株式会社との合弁で、株式会社韓国ワコールを設立。1994年に現社名に変更。2013年現在、従業員数は1,000人超、韓国の女性下着市場で売上1位を誇る。傘下に「VENUS」 「Wacoal」をはじめ、「solb」、 大型スーパー向け「Art-Beau(アルボー)」、男性下着「TRENO(トレノ)」など展開ブランドは15以上。
住所:ソウル市 衿川区(クムチョング) 加山洞(カサンドン) 345-54
電話:02-818-5120
ホームページ:
www.wacoal.co.kr