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韓国文化と生活

  • 年間200本もの映画を見、韓国映画界に20年近く身を置く、映画ライターの土田真樹さん。しかし、韓国を訪れた理由は「近いから」、映画との関わりは「年に5~6本、映画館で見る程度だった」とのこと。そんな土田さんがいかにして現在のお仕事をされるようになったのか?「たまに若い人から韓国で働きたいと相談を受けますが、日本で経験を積んでからでないと通用しないよと言っています。でも実は僕は韓国でゼロから経験を積んだんですけど」と笑う土田さんに、劇場が集まる文化の街大学路(テハンノ)の事務所でお仕事を始めたきっかけや現在のお仕事について、お話を伺いました。

    名前 土田真樹(つちだまき)
    勤務先 ソウルスコープ 編集長
    出身地 山口県
    在韓歴 23年
    経歴 大学卒業後、韓国の高麗大学大学院に留学し、朝鮮経済史を専攻。在学中に文化情報誌「ソウルスコープ」の日本映画紹介コラムを担当。卒業後は、編集者として「ソウルスコープ」の日英版他、韓国語版の映画担当。日本の映画関連の雑誌にも数多く寄稿。2010年よりKBSワールドラジオで「映画DEナイト」のパーソナリティを担当。その他「ゴッドファーザー」などの韓国語シナリオブックの制作や、ガイドブックの著作(韓国語)など、幅広く書籍制作に関与。韓国映画の日本語字幕の監修などにも携わっている。
    留学、映画人との出会い、バブル崩壊、重なる偶然で映画の道へ
    当時の若者は「ソウルスコープ」を頼りに情報収集。

写真は「ソウルスコープ保存版」
    当時の若者は「ソウルスコープ」を頼りに情報収集。
    写真は「ソウルスコープ保存版」
    高麗大学大学院在学中に映画監督のイ・ハギンさんに出会いました。「蒼天航路」(講談社)という人気漫画の原作者として有名な方ですが僕が知り合った頃は売れる前で、お金がないといっていつもうちに泊まっていました。また「映画芸術」という雑誌のイ・ヨンジュさんという日本語がお上手な方とも知り合いになりました。ご存命ならば90歳くらいの方で「うちに遊びに来なさい」と言って下さったので毎日遊びに行っていると、そこに出入りしていた映画評論家の方から「今度、ソウルスコープという雑誌を創刊するので日本映画のコラムを書いてみないか?」と誘われました。たまたま知り合った人たちが映画関係者ばかりだったことが私が映画に関わるきっかけでした。
    「ソウルスコープ日本語版」は現地発信の韓国情報の先駆け
    「ソウルスコープ日本語版」は現地発信の韓国情報の先駆け
    「ソウルスコープ」という雑誌は映画だけでなく、演劇、音楽、イベント情報を集めた文化情報誌で、日本の雑誌に例えるなら「ぴあ」のようなものです。当時は日本文化開放前だったので今のように日本映画についての情報がありませんし、勿論インターネットでダウンロードして観ることもできません。

    そこで日本映画を紹介するコラムを書くことになりました。自分の経験のためと思って引き受けたので報酬はありません。その後、無事に大学院を卒業しましたが日本でバブルが弾けて、戻っても就職できない状況になってしまいました。
    それで「ソウルスコープ」に残って、「ソウルスコープ」の日本語版と英語版の2つの編集責任と日本映画だけでなく韓国で公開されるすべての映画を韓国人に向けに紹介する記事も書くようになりました。今でこそ韓国映画界には海外メディアがたくさん取材に来ますが、当時は試写会に行くと外国人は私一人です。非常に珍しがられて、名前を覚えてもらったりして得しましたね。
    映画について語り明かした飲み仲間は、若き日のあの有名監督たち
    映画の担当になったのも特に理由はなく、入社して「何やる?」「何でもいいです」「じゃあ映画そのまま続ければ」ということで現在に至っています。

    映画に対してはごく普通の興味レベルでしたが、前述のイ・ハギンさんを通じて知り合った映画界の友人たちから「今度新しい映画を撮る」「この間作った映画がコケた」という話を聞くうちに映画に関心を持つようになり、アウトサイダーの外国人ではなく韓国映画界の人脈の中に自分自身がいつしか入っていたんですね。
    そこから、ただ映画が楽しいというだけでなく、この映画人たちや作品をきちんと紹介していけるか、マスコミとしての責任感を意識するようになりました。始めた頃は、金はなかったけど時間はたっぷりあったし、みんな20代30代と若かったから映画人と飲んで話すのは楽しかったです。

    「スキャンダル」のイ・ジェヨン監督は当時学生で、こいつはビッグになるなと思いました。「8月のクリスマス」のホ・ジノ監督、「華麗なる休暇」のキム・ジフン監督も助監督時代で、当時の飲み仲間が有名な監督になりましたね。僕はそのままですけど(笑)。
    一番好きな映画はイ・ジャンホ監督の「馬鹿宣言」(1983年)です。何がすごいって言葉のないノンバーバル映画なんですよ。制作当時の全斗煥(チョン・ドファン)政権下では検閲制度があり、反政府的だと罰せられることもあるので、あえて台詞を入れませんでした。

    日本では政治的なことをほとんど意識しませんが、韓国では言論の自由を抑圧されていたことがすごくショックでした。その対抗策を抵抗ではなくパフォーマンスで表現した「馬鹿宣言」はすごい映画だと思います。

    以前の韓国映画は反体制のため、民主化のためという意識で制作されましたが、いつの間にか日本のようになりました。多様性が広がったと言えます。ただ、かつての映画制作費は今の10分の1、でも映画制作そのものが映画人の生きがいであったように感じました。
    90年代末から日本で起こった韓国映画ブーム
    日本向けに韓国映画を紹介し始めたのは1990年代末頃からです。「8月のクリスマス」「シュリ」で一時韓国映画がブームになりました。韓国映画界に日本人がいると噂が広まったようで日本からの仕事が急に増えました。同時に日本人ライター、もしくはライター志望の人が韓国にどっとやって来ましたが、今は、かつてに比べて激減していますね。もちろん韓流ブームが去って、仕事量が減ったことも大きな要因のひとつですが、日本の常識で世界は動いていないということもあるでしょうか。

    韓国は日本のようにきっちりしていなくて大雑把。約束はあってないようなもので、取材当日のキャンセルはしょっちゅうです。日本的に考えると有り得ないことですが、そうでない世界があることを常に頭の中に入れておかないとダメですね。僕は今でも万が一取材がダメな場合の次の策を考えておくようにしています。信用できないという言い方には語弊がありますが、韓国では何が起こるかわからないし、その時、何ができるかを考えておかないと仕事に穴があいてしまいます。仕事のやり方は日本とは随分違うと思いますよ。
    旬のスター、チャン・グンソク
    旬のスター、チャン・グンソク
    日本的なシステムはよい部分もありますが、日本はどうでもいいようなことに規制が多いです。また合理的でない部分もあります。例えば、記者会見が始まると、カメラマンは写真撮影ができないにも関わらず会見の始めから終わりまで地べたに座らされて待たされるのが慣習です。

    先に撮らせて退場させるか、フォトタイムが始まってから呼べばいいのに、合理的じゃないと韓国のカメラマンはよく怒っています。日韓で仕事をしていると、慣習の違いを感じますね。

    日本に韓国映画を紹介する場合は役者ありきです。映画そのものよりも誰が出ているかが重要。ペ・ヨンジュン主演「4月の雪」は韓国では100万人入っていないですが、日本では260万人の大ヒット。これはちょっと違うなと感じます。

    ただ、映画の面白みは時代とともに変わっていきます。時代を越えて面白いのはそれこそ不朽の名作ですし、3年前の映画が今おもしろくないのは当時がそういう時代だったということ。映画は生き物でリアルタイムです。

    だから日本人にとってリアルタイムで人気があった韓国映画が、韓国で受けなくても当然だと思います。役者でも映画でも旬の時期があり、時期を逃すと価値が落ちてしまいます。かつてクォン・サンウが人気でしたが、今はチャン・グンソクが旬です。
    しかし10年後の30代のチャン・グンソクが見たいかといえばそれはわからない。映画だけでなく、すべてトレンドの中で動いていると思います。
    映画の制作者と観客のつなぎ手として「誰もが理解できる言葉で」
    KBSワールドラジオ「映画DEナイト」
    KBSワールドラジオ「映画DEナイト」
    今、KBSワールドラジオで「映画DEナイト」という番組を担当しています。ラジオの仕事は初めてで、非常に緊張しました。経験がないので断ったのですが、ラジオならどんなに髪ぼさぼさでも構わないので、まあいいかということで(笑)。韓国映画の今を語るというコンセプトで始めましたが、はじめは評判が悪く、日本で公開されるような映画を紹介してほしいと言われました。

    でもそんな番組は日本にたくさんあって、わざわざ韓国発で僕というフィルターを通す必要がないと思って、月に2回は映画紹介、残り2回は雨の名場面特集、クリスマスの映画特集などテーマ特集やゲストを招いたりしてバラエティを持たせることにしました。
    ユン・ソクホ監督
    ユン・ソクホ監督
    次第に聴いてくれる人が増えて、「ラジオを聴いて家族で映画を見に行きました」と言ってもらえたりすることもあり、最近は評判がよいと聞いています。編集の仕事もそうですが映画の作り手側と見る側をつなぐのが僕の仕事です。

    だから誰が読んでもわかりやすい文章を探し、没個性が個性だと思って誰にでも理解できる内容を心がけています。個性を出したいならエッセイや日記でしょう?いかにして映画と読者、観客をつなげていくかを考えています。

    牛乳はそのまま飲むとお腹をこわしますが加熱すると美味しく飲めますよね。僕の役割はそういうものだと思っています。最近、昔に比べて取材がしにくくなったのが悩みです。以前は役者や監督にダイレクトに取材を申し込めばOKでした。

    「キネマ旬報」の仕事で、表紙にするから単独取材させてくれと「ブラザーフット」という映画のプロデューサーに交渉したところ、チャン・ドンゴン、ウォンビン、監督の単独インタビューが実現し、その号はほぼ完売しました。以前は1つの窓口を通せばすべてOKで、特に海外メディアの取材は珍しがられて取材はすぐにOKが出ました。
    今はそうはいかなくなって、知り合いの監督や役者に頼んでも「事務所を通して」「映画会社を通して」と言われ、あちこちに回されるうちに結局取材ができない場合がよくあります。僕たちは人対人の関係でやってきたのに、様々なしがらみができてしまって、フットワークが重くなってしまって残念です。そんな中でも前から親しくさせてもらっているユン・ソクホ監督(「冬のソナタ」他四季シリーズ)など、今でもダイレクトに取材を受けて下さる方もいます。
    仲がいいほど迷惑をかけるのが韓国式友情の示し方
    日本人は親しき中にも礼儀ありで一線を越えてはいけないと考えています。韓国にはそれがありません。むしろ親しいからこれくらい迷惑かけても大丈夫だろうという感覚です。どこまで迷惑をかけられる仲か、というのが親しさの度合いで日本とは考え方が違います。

    自分が甘えられる部分は甘えさせてもらうし、相手が甘えたいと思っていることに関しては受け入れてあげる。そのお互いのクロス部分の幅がいかにあるかというのが、韓国人との付き合いの妙味だと思います。
    僕は大家族で育ったので人のものと自分のものの区別があまりなかったせいか、韓国に来てカルチャーショックはありませんでした。それに韓国は外国なので、日本だったらこうなのに、と日本の価値観で考えるとすべてマイナス思考になってしまいます。韓国に来て間もない頃、バイクでツーリング中に事故に遭い、大怪我をして1ヶ月半入院することになりました。

    看護師が点滴を間違えて僕の腕が腫れたのに当の看護師が「ポパイの腕みたい!」と言ってみたり、同室のおじさんたちが夜中に酒盛りをしたり、韓国語もろくには話せない頃でしたが、日本に帰ろうという気にはならず、韓国っておもしろいな、こういう経験は日本ではできないなと思いました。僕の中にもアバウトな面があるので、水が合ったんだと思います。
    映画に、ミュージカルに、韓国エンタメはおもしろい
    継続は力なりで、一番大切なのは今の自分をこれからも続けることです。映画は好きですが、一歩離れてのめり込まなかったからこそ、今まで続けてこられたのではないかと思います。例えば、映画制作をしたい、監督になりたい、一発当てたいとか、欲を出さなかったのがよかったのではないでしょうか。

    今後の計画としては、韓国ミュージカルの日本向け雑誌を創刊します。K-POPドラマが主流ですが、ミュージカルにも隠れた需要があるんですよ。大学路周辺の劇場でも日本語字幕つきの舞台も増えています。今、準備に追われていますが、映画と並行してやっていく予定です。
    2011年夏の韓国映画
    制作費100億ウォンを超えると言われ、スターが主演の大作が続いた2011年夏の韓国映画、中でも土田さんのおススメは「高地戦(コチジョン)」(チャン・フン監督、コス、シン・ハギュン主演)。「戦争の悲惨さが伝わってきて2時間13分は長いと感じませんでした。完成度が高いです。イ・ジェフンという若い俳優がストイックな演技をしていて注目です」。

    「7鉱区(チルグァング)」(キム・ジフン監督、ハ・ジウォン、アン・ソンギ、オ・ジホ主演)(取材時、未鑑賞)「クイック(クイッ)」(チョ・ボムグ監督、イ・ミンギ、カン・イェウォン主演)「スピード感のある笑いもありの娯楽作品です。主演の2人をはじめ制作陣は「TSUNAMI」のチームです」

    「最終兵器 弓(チェジョンビョンギファル)」(キム・ハンミン監督、パク・ヘイル、リュ・スンリョン主演)「よい意味で、スクリーンに引き込まれるアクション娯楽映画となっています。また、日本人俳優である大谷亮平さんの映画デビュー作です」。
    高地戦
    高地戦
    7鉱区
    7鉱区
    クイック
    クイック
    最終兵器 弓
    最終兵器 弓
    インタビューを終えて・・・
    ストレス解消は海外旅行という土田さんですが、その旅程が誰にも真似できないほど非常にユニークです。「取材やラジオがあって長く休めないので、いつも弾丸ツアーです。1泊3日パリ、1泊3日ドイツ、0泊4日ブラジル。ブラジルはふと思い立って、アイルトン・セナの墓参りに行ったんですよ」。月に1回海外旅行に行って新しいものを見るということを自ら課しているからだそうで、何ともエネルギッシュな充電方法です。

    「旅先でも時間があればふらっと映画館に立ち寄ります。ミャンマーでは電気事情が悪いので上映中で停電になったりして。その国の映画を見ることでトレンドや生活の一部を垣間見ることができます」。韓国映画も同様で、映画を見ると韓国を知ることができる部分は多々あります。これからも韓国をよく知る土田さんならではの視点で、韓国映画のおもしろさ、魅力を私たちに伝えて下さることでしょう。

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                最終更新日:11.08.30
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