韓国生活のリスクを減らす手助けに
韓国で住む場所を決める前に、駅から近いか、コンビニやスーパーがあるかなどの生活情報の他に、治安面でどんなリスクがあるのかを知っておくことは、安全・安心な韓国生活を送る上でとても大事になってきます。
ここでは、韓国の「性犯罪者身上公開制度」とその利用方法について説明します。
この情報を元に知ったこと・知っておくことでできる心構えや生活上の行動様式を考え直すきっかけとして役立ててください。
「性犯罪者身上公開制度」とは?
「性犯罪者身上公開制度」とは性犯罪被害防止のために、性犯罪者の個人情報をインターネット上で公開する制度です。
ただし、再犯の恐れが高い犯罪者のみに限定されているので、性犯罪者すべてが対象になるわけではありません。
性犯罪としての有罪が決定すると、性犯罪者身上情報データベースに個人情報がまずは「登録」されます。
この登録者のうち、以下の条件に該当する者が個人情報の「公開」対象者になります。
個人情報公開の対象者
・買春または斡旋行為、強姦、強制わいせつなど性犯罪を犯し、懲役刑や罰金刑などの刑事処罰が確定した者
・刑が確定する際に、法院(裁判所)で再犯の恐れがあると判断され、身上公開命令決定が下された者
※インターネット上で個人情報が公開されるのは、刑期を終えてから最長10年
「性犯罪者身上公開制度」の導入と過程
2000年代に入り韓国では児童、青少年が被害者となる事件を含めた性犯罪の発生率が増加傾向にありました。
検察庁の「犯罪分析統計」によれば2000年に人口10万人当り14.9件だった性犯罪の発生件数は、2008年には約2倍にまで増加しています。
さらに90年代後半から00年代にかけ援助交際や凄惨な性犯罪が社会的イシューになるなどの状況から、前科者の再犯抑止効果や周辺住民のための安全・防犯などを目的として「児童・青少年の性保護に関する法律第49条(登録情報の公開)」をもとに2008年7月に「性犯罪者身上情報制度」が韓国で初めて施行されました。
その後2011年4月16日からは19歳以上を対象にした性犯罪に対しても、個人情報を公開するよう改定されました。
また、2012年からは個人認証を経れば誰でもオンライン上で情報を閲覧することができるようにシステムが構築・改定されました。
さらに2013年からはカメラなどを利用した撮影、電車内での痴漢、性的な目的による侵入、通信媒体を利用したわいせつ行為などが登録対象に指定されることで性犯罪の件数および個人情報の登録者数が一気に増加しました。
出処:検察庁「犯罪分析統計」
犯罪率=(犯罪発生件数÷総人口)×10万
公開される個人情報の内容は?
登録対象である犯罪者の情報は、「児童・青少年の性保護に関する法律第20条」に基づき以下の個人情報が公開されます。
- 名前
- 年齢
- 実居住地の住所
- 身長・体重などの身体情報
- 写真
- 起こした性犯罪の要旨
- 性暴力犯罪の前科事実
- (位置追跡・把握用GPS付)電子足輪の着用有無
住所は邑・面・洞(韓国の住所の最小単位)までのみが公開されます。
アパートの階数や号数などの詳細住所については、同じ地域に住んでいる未成年者がいる世帯と児童・教育関連施設などに限って、公示請求申請をすると郵便により知ることができます。
電子足輪(GPSアンクレット)
ⓒ 中央日報日本語版
どこでどうやって確認できるの?
「性犯罪者アルリム(お知らせ)e」サービス
性犯罪者の個人情報の確認は、女性家族部が運営する「性犯罪者アルリム(お知らせ)e」というサービスを利用することでオンライン上で確認ができます。
2021年1月現在、PC版サービスとスマートフォンアプリ版(Andoroid/iOS)のサービスが存在し、外国人でも本人認証が可能であるなら閲覧することができます。
PC版サービスのホームページ
サービスの利用に必要なもの
「性犯罪者アルリム(お知らせ)e」サービスには必ず実名認証手続きが必要です。そのため以下のどちらかが必要になります。
1.韓国の携帯電話番号(本人名義)
2.外国人登録番号(住民登録番号)
閲覧方法(例:iOS版アプリ)
1.初期画面から「地図で検索」または「条件で検索」のどちらかを選択
「条件で検索」の場合は「名前」、「邑/面/洞」、「学校の半径1㎞」、「市/道別検索」、「道路名住所検索」の5つから選べます。
2.個人情報活用に関する同意をした後に実名認証手続を選択
認証の方法は住民(外国人)登録番号、携帯電話番号、I-PIN、デジタルワンパスの4つがあります。
3.認証に成功すると1で選んだ「地図で検索」「条件で検索」が可能になります。
iOS版アプリの初期画面
要注意!掲載情報は絶対にSNSなどで公開しないこと
掲載情報の公開は処罰の対象
表示されている情報のキャプチャー画面を情報通信網を利用して公開したり、出版物や放送で公開した場合、「児童青少年の性保護に関する法律第55条および第65条」に基づき5年以下の懲役または5,000万ウォン以下の罰金に処されることになります。
友人同士などで情報交換する目的等でもキャプチャーを共有したり、SNSに投稿したりすることは法律違反ですので絶対にやめましょう。
実際に閲覧してみた結果
筆者が自身の住むソウル市内の某エリアで検索をしてみた結果、驚く事に該当地域では10人以上の性犯罪者の情報が表示されました。
その中には筆者の自宅から歩いて数分の距離に住んでいる性犯罪者や、小学校のすぐそばに住んでいる性犯罪者がいることもわかりました。
他エリアも調べて比べてみたところ、筆者の住むエリアがたまたま多かった事が確認できましたが、こんなにも身近に性犯罪の前科者がいるという事が大変衝撃でした。
それと同時に、今後生活圏内で人気の少ない道や夜道などは最大限一人で歩かないよう心掛けることにしました。
条件さえ許すのであれば、引っ越しも選択肢に考えています。
知ってしまったことに対する戸惑いももちろんありましたが、知ったこと・知っておくことでできる心構えや生活上の行動様式を考え直すきっかけになったので、個人的には閲覧してよかったという結論です。
現在韓国に住んでいる方には一度是非調べておくことを推奨します。
性犯罪者身上公開制度の課題
ここまで「性犯罪者身上情報制度」について紹介してきましたが、課題も存在します。
現行法では個人情報の「登録」業務は法務部が担当し、「公開および公示」については女性家族部が行う二元的な体系で運営されています。このため最初の性犯罪者の個人情報登録から公開および公示の執行までに約4週間の所要期間が発生するなど、国民に必要な情報の迅速かつ円滑な提供がなされないという問題が1つあります。
また、現行制度上で個人情報の提出は登録対象者、つまり性犯罪者の自発的な申告に依存しているため、公開されている情報の正確性と有効化が疑問視される声も出ています。実際に性犯罪者が登録義務を違反する事例も少なくありません。
個人情報登録の義務違反で刑事立件された数だけでも2015年1,949名、2016年2,766名、2017年2,161名と確認されています。
「登録」者数は年々増加しているのに反して、「公開」者数はその割合がどんどん減っていることによる制度の実効性への指摘もあります。
「2020性犯罪白書」によれば、2011年の登録数は1,944件、うち公開対象数は1,471件で75.7%の割合だったのが、2018年には登録数は14,053件、うち公開対象数は726件で5.2%の割合まで減少しています。
さらに一部では、インターネットを通して個人の身元情報が公開され、近隣の住民に詳細住所まで郵便により公示されることが、刑罰に匹敵する重大な刑事法的制裁であるため、個別の再犯危険性を考慮せずにこうした処置をする事に慎重になるべきではないか、という意見もあります。
こうした議論とともに、デジタル化・複雑化している性犯罪に対して更なる重罰化を望む声も上がっており、刑量も含めて今後さらに性犯罪・性犯罪者に対して実効性のある法制度の見直しが行政に求められている状況です。