南大門市場(ナンデムンシジャン)から南山(ナムサン)に向かう坂道を上ること約20分。遠くNソウルタワーが見渡せる場所に、とある市民アパートがあります。市民アパートは60年代以降、市の主導で約400棟が建てられましたが、ここ十数年間に次々と撤去され、この「会賢示範アパート」が最後の1棟となりました。
建設直前に手抜き工事による市民アパート崩壊事故が起きたため、今後の模範を示す(=示範)意味でかなり頑丈に造られた会賢示範アパート。セントラルヒーティングが初めて完備されるなど、当時としては最新式のアパートに、上流層や芸能人もたくさん住んでいました。
それから約40年の歳月が流れた今、所々朽ちかけたアパートにはどこか暗く重い空気さえ漂います。そんな独特の雰囲気から、近年は「拳が泣く」「親切なクムジャさん」といった有名映画の撮影地にも使用されました。日本未公開のホラー映画「ソルム(鳥肌)」では、このアパートがメイン舞台になっています。
撤去の波にもかかわらず、現在まで存在している示範アパート。実は数年前から開発問題をめぐり、住民とソウル市の対立が続いています。隣接するアパートの全住民は、撤去に伴い地価の高い江南(カンナム)地区のアパート分譲権が与えられたのに、示範アパートの住民には抽選を通してのみ与えるというのです。
約3億ウォンにまで跳ね上がったという10坪あまりの示範アパート。所有者の中には一攫千金を狙った投資家もいるでしょうが、長年住み続けて来た住民たちも少なくありません。思い出とともに70年代のシンボルが消えてしまう日を思うと、どこか寂しい気持ちにならざるを得ません。
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