巫堂
朝鮮半島伝統の文化、巫堂(ムーダン)。今回は土着宗教とも、精神文化ともいえる韓国の巫堂について説明しましょう。
巫堂とは、医学では治らない病気を治すときや、家でよくないことが起こったときに悪霊を祓うときや、先祖供養をするとき、また豊漁や豊饒を祈るときなどに儀式を司る人(ほとんどが女性)のことを言います。楽士(男性が多い)がチャングやケンガリ(鉦)、チン(銅鑼)などの楽器を打ち鳴らす中、巫女が激しく踊ったり歌ったりして、トランス状態になっていき霊と交渉し、依頼者に霊を媒介してお告げやアドバイスをする、という形式をとるのが、一般的な巫堂のイメージです。
仏教伝来より昔からあった巫堂
巫堂は青森県の恐山(おそれざん)のイタコや、沖縄のユタなどと比較されることも多いようです。世界各地に存在する、霊的なものとの交渉儀式(シャーマニズム)ですが、巫堂の儀式では、念仏を唱えたり道教を思い出させる祭壇を構えたりするように、仏教や道教の影響を多く受けています。
しかし巫堂の歴史はそれらの宗教よりももっと古く、かつては王朝の儀式にも使われていたんです。中には、国家無形文化財に指定されている巫堂の儀式もあります。では、韓国の小説や映画、在日文学でもよく出てくる巫堂の儀式を少し見てみましょう。
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1日中、時には何日間もぶっ続けで行われる儀式
韓国の巫堂の人々には、代々巫堂の血を受け継いできた世襲巫と、ある日突然神がかりの状態になってしまい、それから修行して巫堂になった降神巫の2種類がいます。病気治癒や悪霊退散、先祖供養など個人的な儀式の場合、巫堂の家や依頼者の家、悪霊のいる場所、もしくは山の中にある施設(巫堂村)などで行います。
記者が取材に訪れたのは、ソウルの西、仁川(インチョン)市の外れ、ある山中の巫堂村。施設には儀式をするための小部屋がたくさんあり、さまざまな巫堂が部屋を借りて儀式をしていました。
このときの依頼者は、30代の女性。ずっと原因不明の体調不良に悩まされていて、いろんな病院に行っても治らない。そこで巫堂に相談してみると、体の調子が悪いのは神が降りてきている状態だからだと分かりました。彼女は巫堂になることを選ばれたのです。修行して、巫堂にならなければ体調不良は治りません。
しかし彼女は結婚していて子どもにも仕事にも恵まれており、今の生活を失いたくない。それで巫堂に依頼して、巫堂にならなくてもいいようにお祓いの儀式をしてもらったのです。
儀式は朝から次の日の未明まで続きました。4人の巫堂が交代で激しく回転したり飛び跳ねたり、何枚も服を着替えたりして踊り、その都度彼女に何かアドバイスします。楽士たちがチャング、チン、テピョンソ(チャルメラ)などで複雑なリズムの音楽を奏でています。狭い部屋に騒々しい音楽がけたたましく響き続け、極彩色の衣装をまとった巫女が激しく飛び跳ねると、見ているだけでトランス状態に落ちていきそうでした。
依頼者の女性が服を着せられて踊らされたり、巫女が刀の上を歩いたり、楽士が念仏のような曲を歌いながらお札を次々に燃やしたり、祭壇に何度もお礼を繰り返したりと、様々なお祓い・神降ろしをしながら、儀式は12時間近く続いたのです。
記者は何故かよく分からないのですが、この日以来、巫堂の儀式を見るたびに原因不明の腹痛に襲われるようになりました。友人の日本人も同じようなことを言っていました。巫堂には何か恐ろしい力があるように思えてなりません。
以前、巫堂の楽士をしているおじいさんと知り合い、占いをしてもらったことがあります。その日会ったばかりのおじいさんに、これまでの人生をピタリと言い当てられたときは、正直背筋が寒くなりました。やはり巫堂は、科学では説明できない能力を持っているのでしょうか。 街の巫堂は普段、占いのようなこともしながら生計を立てているのです。
今も生活に根付いている巫堂文化
巫堂の家は、通りを歩けば見つけられます。記者が試しに、自宅の周辺(ソウル市内東部です)を散歩しただけで、6軒の巫堂の家らしき建物を見つけました。白と赤の旗を掲げ、玄関に卍の文字を飾り、「○○菩薩」などの看板を掲げていることが多いです。(※一般の占いの家でも権威付けのために「卍」の字を掲げることが多くあります。)
科学的でないものを排斥する現代韓国社会では、クリスチャンから「悪魔」呼ばわりされるなど、偏見の目で見られることの多い巫堂文化ですが、街中にこれだけ残っているのを見ると、やはり現代韓国でも巫堂を必要としている人々が多いのが分かりますね。
巫堂は宗教のひとつだとも見られがちですが、巫堂の儀式はこの世に生きている人のためにするものです。先祖供養も、生きている子孫たちが安らかに暮らしていくためのもの。平穏な生活を望む儀式だからこそ、何か不吉なことが起きたときに、今でも巫堂の力を借りるのでしょうか。
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