日本と似ているようで 大きく違う韓国の政治
韓国は言わずとしれた大統領制の国。韓国の政治は、行政・立法・司法の三権分立体制をとっていて日本と同じですが、大統領に強力な権限が与えられていたり、国会が単院制など、日本とは異なる部分もたくさんあります。
韓国の政治はどのような仕組みで行なわれているのか見ていきましょう。
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韓国は、 1945年8月15日に日本の支配から解放後アメリカ軍政統治を経て、1948年8月15日に大韓民国政府が樹立されました。韓国の政治体制の基盤を定めるのは1948年に制定された「大韓民国憲法」です。
韓国では憲法の改正を歴史的な一区切りとし、それぞれの時期の憲法を第1~第6憲法と呼び、各憲法に基づいて構成された政治体制を第1~6共和国と呼称しています。
現在の憲法は第6共和国憲法と呼ばれ、1987年に採択。韓国の歴史上最も国民の意思が反映されていると言われ、この憲法に基づいた第6共和国は、1988年に盧泰愚(ノ・テウ)が大統領に就任して以来、今日まで続いています。
独裁政治体制から軍事政権を経て民主化まで。現在までの政治体制の推移は、そのまま韓国の激動の政治史といっても過言ではありません。
第1共和国
期間(年):1948~1960
憲法の改正:第1次、第2次
大統領:李承晩(イ・スンマン)
憲法改正内容・主な政治的出来事
・独裁政治体制
・直接選挙制の導入
・4・19革命
第2共和国
期間(年):1960~1961、1961~1962(軍政)
憲法の改正:第3次、第4次
大統領:尹潽善(ユン・ボソン)
憲法改正内容・主な政治的出来事
・国会二院制、議員内閣制導入
・5・16軍事クーデター
第3共和国
期間(年):1963~1972、1972~1979(維新体制)
憲法の改正:第5次、第6次
大統領:朴正熙(パク・チョンヒ)
憲法改正内容・主な政治的出来事
・国会単院制、大統領3選可能
・非常戒厳令(十月維新)
第4共和国
期間(年):1979~1980
憲法の改正:第7次
大統領:崔圭夏(チェ・ギュハ)(臨時代行)
憲法改正内容・主な政治的出来事
・大統領の再選無制限、大統領間接選挙制
第5共和国
期間(年):1980~1981(軍政)、1981~1988
憲法の改正:第8次
大統領:全斗煥(チョン・ドゥファン)
憲法改正内容・主な政治的出来事
・軍政
・大統領間接選挙制、大統領単期7年制
・ 光州事件
第6共和国
期間(年):1988~
憲法の改正:第9次
大統領:盧泰愚(ノ・テウ)
金泳三(キム・ヨンサム)
金大中(キム・デジュン)
盧武鉉(ノ・ムヒョン)
李明博(イ・ミョンバク)
朴槿恵(パク・クネ)
文在寅(ムン・ジェイン)
尹錫悦(ユン・ソギョル)
李在明(イ・ジェミョン)
憲法改正内容・主な政治的出来事
・盧泰愚「民主化宣言」
・大統領直接選挙制、単期5年制、憲法裁判所の設置
・金大中ノーベル平和賞受賞
・盧武鉉「 弾劾訴追」
・ 朴槿恵「弾劾訴追」、「 罷免」
・尹錫悦が非常戒厳令を発令(2024年12月3日)
・尹錫悦「弾劾訴追」、「罷免」
現在の政治体制を図式化すると以下のようになります。行政・立法・司法に分けてそれぞれ説明しましょう。
1.大統領
任期5年、再任不可で、国家の元首です。行政府の長というだけでなく、軍の最高司令官としての地位も持っているのが 徴兵制度のある韓国ならでは。立法権は国会に属しますが、政府も法案提出権を持っています。
大統領の主な権限には条約の締結・批准、国務総理の任命などがあります。また、大統領は大統領秘書室や国家情報院など直属の機関を持っています。
 深い青色の瓦がトレードマーク「 青瓦台」
※2022年大統領執務室が移転後、一般開放
 第17代大統領の李明博(イ・ミョンバク)氏
 ©連合ニュース
戒厳令とは国に大きな危機が迫った時に大統領が発動できる特別命令です。クーデター、内戦、戦争、暴動、国家的災難などの非常事態によって国家の日常的な治安維持と司法権維持が不可能だと判断される場合、大統領が軍隊を動員して治安および司法権を維持する措置、と言われています。
大韓民国憲法77条によると、大統領には戒厳令宣布権があり、非常戒厳が宣言されたときは、言論、出版、集会、結社の自由、政府や裁判所の権限に関して特別な措置をとることができるとあります。同時に戒厳を宣言したときは、国会への通告が義務付けられています。これに対し、もし国会が在籍議員の過半数の賛成で戒厳解除を要求したときは、大統領はこれに従わなければならないとされています。
韓国において、これまで戒厳令が発動されたのは、軍事政権下で政権掌握および政権維持のために反対勢力への弾圧に悪用されてきた歴史があります。1980年の戒厳令以来、民主化政権となった1988年以降に発動されることはありませんでしたが、2024年12月3日未明、尹錫悦大統領により突然の戒厳令が出され、市民は大きな驚きに包まれました。
国会で全会一致による解除要求が可決され、宣言後の6時間後に解除、大きな衝突もなく、韓国社会に混乱はありませんでした。ただ、野党との対立を理由に戒厳令まで発動する必要があったのか、尹錫悦大統領の責任を問う声が高まり、大統領退陣を求める大規模な市民デモが連日のように行われました。
結局、弾劾訴追となり、現職大統領で2人目の罷免という結末を迎えました。
◆ 昨日発表された韓国の戒厳令って何?
◆ 尹大統領の非常戒厳宣言、寝耳に水
◆ 国民が戒厳解除までの全過程見守る
2.国務総理と国務委員
大統領を補佐するのが国務総理と国務委員です。国務総理は大統領が弾劾などによる欠位、あるいは職務遂行ができなくなったときに、大統領の任務を代行します。なお、国務総理は行政機関(部処庁)を統括し、国務委員と呼ばれる閣僚を任命します。国務委員は行政各部の長であり、「長官(日本の大臣にあたる)」としての地位を持っています。
3.国務会議
行政府の重要な政策を審議する最高審議機関で、日本の内閣にあたります。国務会議は大統領、国務総理、15人以上30人以下の国務委員によって構成。憲法では財政や外交政策の決定など17の重要事項について必ず国務会議の議決を通さなければならないと定めており、国務会議は国政上重要な地位を占めています。
レームダック化と大統領の末路
 国民の関心はもはや次期大統領へ
第6共和国憲法では、大統領は5年の任期と再選禁止が規定されています。そのためレームダック化(大統領の求心力の早期低下)は、韓国の政権の宿命といえます。レームダックとは足の悪いアヒルのことで、任期がわずかに残っている政治的な影響力を失った政治家を指す言葉です。韓国においては大統領選挙が近づくと、次期大統領候補へと権力の中心が移ります。
大統領の求心力が失われると、これまでおさえてきた大統領の側近と親族をめぐる不正等の露呈につながりやすくなるという一面も。退任後に自身や身内が逮捕・起訴されて有罪判決を受けたり、隠遁生活を余儀なくされ不幸な末路を迎えている大統領が多いのも、こうした背景があるからだと言われています。
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日本同様、国会は法律を作る唯一の機関であり、有権者によって選ばれた国会議員が職務にあたっています。
1.国会
立法権を持つ国会は単院制で解散はなく、定員は300名(2024年時点)、任期は4年です。国会議員の選出方法は小選挙区比例代表並立制。予算審議及び確定権、条約締結に対する同意権などを持っています。
 国会内の本会議場
 国会議員選挙時の街角。
大きなポスターが掲げられている
2.政党
韓国は複数政党制を採用。2024年現在、国民の力党(与党)、共に民主党(野党)による二大政党制になっており、その他いくつかの政党があります。韓国の政党は、基本的には軍事政権時代から1999年までの長い間、絶えず政権を握ってきた保守、それに対抗する革新、その他の政党という3つの流れがあり、こうした基本構図に地域対立、党首同士の対立などが加わって、複雑に離合集散を繰り返してきたのが特徴です。
地域間対立とインターネットの台頭
韓国の選挙の最大の特徴は地域主義と言われています。地域主義とは選挙の際、政党の得票率や議席率に極端な地域差が出ることで、大統領選挙においては候補者の出身地域が重要視されたりという影響があります。
特に 全羅道(チョルラド)と 慶尚道(キョンサンド)の対立は激しく、始まりは1960年代の朴正煕政権に遡るといわれます。朴正煕大統領は慶尚道の亀尾(グミ)出身で、当時、慶尚道地域のインフラ整備の際、同郷出身者を優遇したことで全羅道が反発。1987年に「民主化宣言」が出され、全羅道出身の金大中が政権を握ると、今度は全羅道の経済開発が優先され批判を浴びました。
 金大中元大統領は外国訪問の際、全羅道に拠点を置く錦湖財閥のアシアナ航空を使用した
 盧武鉉元大統領の 国民葬にて。
若者の支持が高かった
民主化以降、地域主義が有権者の投票行動と政党体制を決める大きな要因となっていましたが、そこに変化をもたらしたのがインターネットの普及と反地域主義者だった盧武鉉の大統領当選(2002年)。
盧武鉉はインターネットを通じて国民と積極的に意見交換を交わし、「ノサモ(ノ・ムヒョンを愛する会の略)」 という運動を中心に20~30代の若者の支持者を集めました。韓国では「ネチズン(ネット市民)」による言論活動が盛んで、時には世論を動かすなど、政治に影響を及ぼす新たな力と注目されたのもこの頃からです。
司法権は裁判所にあたる法院にあり、日本同様、同一事件につき審判を3回行なうことができる三審制を採用。下級裁判所の判決に納得できない場合、上級裁判所に控訴することが可能です。
1.法院
最高裁判所にあたるのが大法院で、大法院長は国会の同意を得て大統領が任命します。その下に高等法院、地方法院、家庭法院が続きます。
2.憲法裁判所
1988年に設置された裁判所で、憲法裁判所の長は国会の同意を得て裁判官の中から大統領が任命します。その役割は大きく「違憲法律裁判(法律が憲法に違反するかを審判)」と「弾劾法律裁判(大統領や国務総理など一定の公職にあるものの非行に対し、罷免するか否かを審判)」の2つがあります。
弾劾とは、大統領や行政の長官、裁判官など法律が定めた公務員がその職務において憲法や法律に違反したときは、国会は弾劾の訴追を議決することができるというもの。つまり国会は大統領の罷免を要求できるという意味です。
国会で大統領の弾劾を訴追するには、議員の過半数の発議が必要で、3分の2の賛成がなければなりません。もし、弾劾訴追の議決を受けた場合には、弾劾裁判までその権限行使が停止されることになります。弾劾裁判の結果により、大統領は罷免されることもあります。
歴代大統領の弾劾の事例を見ていきましょう。
韓国政治史上初の「大統領不在」
 ソウルでは連夜、弾劾反対のろうそく集会が行なわれた
総選挙を控えた2004年3月、当時野党のハンナラ党(現・国民の力党)、新千年民主党(現・共に民主党)が、選挙違反などを理由に盧武鉉大統領の弾劾訴追を発議しました。
投票の結果、弾劾訴追案は可決され、一時的に大統領は職務を停止されるという緊急事態が発生。大統領がやめさせられるというのは韓国政治史上初めてのことで、大きな話題となりました。
しかし大統領を弾劾して国政を混乱させたとして世論は野党に反発、その結果、総選挙では開かれたウリ党(盧武鉉政権与党)が勝利するという結果に。
一方、憲法裁判所は「罷免の理由となる重大な違反ではない」と判断し大統領弾劾訴追を棄却。大統領は63日後職務に復帰しました。
「崔順実ゲート」と 韓国政治史上初の「大統領罷免」
2016年のいわゆる「 崔順実(チェ・スンシル)ゲート」は、朴槿恵(パク・クネ)大統領の親友への文書流出から端を発し、横領疑惑や職権濫用をはじめ国政介入の問題が次々と噴出した、韓国全体を揺るがした大事件。
韓国国民の朴槿恵大統領と政府に対する不信感は日増しに募り、朴槿恵大統領退陣を求める市民の声が大きくなっていきました。
「ろうそく集会」は、2016年10月末から2017年3月の朴槿恵大統領罷免まで、毎週韓国各地で開催。ソウルだけでも毎回数十万人規模におよび、その動向は世界的に注目されるものとなりました。
朴槿恵大統領は、2016年12月9日より権限停止、2017年3月10日に罷免決定。「韓国憲政史上初の弾劾大統領」として歴史に名を残すことになりました。
 朴槿恵大統領退陣を求め、毎回数十万人の市民たちがろうそく集会に参加した
 警察への連行者をほとんど出さなかった
「平和デモ」としても記録的なものとなった
「非常戒厳令」に国民がNO、史上2人目の罷免へ
民主化政権下において44年ぶりの「非常戒厳令」を発動した尹錫悦大統領。民主主義を揺るがしたと国民から大きな怒りを買い、弾劾を求める市民デモが瞬く間に韓国全土に広がりました。
弾劾を回避し大統領退陣で事態を収拾しようとした与党は国会での第一回の弾劾採決に不参加、弾劾案は否決されました。しかし弾劾を求める世論の高まりから第二回での弾劾採決は風向きが変わり、可決。現職大統領として三人目の弾劾手続きが取られることになりました。
大統領の罷免をめぐっては賛成派と反対派が連日デモを繰り返し、世論を二分する状況となりましたが、憲法裁判所は「12·3非常戒厳」は憲法に違反し、国民の信頼を裏切り、社会に混乱を招いた、として2025年4月4日に尹大統領の罷免を決定しました。
 ©連合ニュース
弾劾訴追案の採決を行う国会
 ©連合ニュース
罷免を決定した憲法裁判所
韓国の自治体は、大きく広域自治体と基礎自治体の2階層に分かれています。
日本の都道府県にあたる広域自治体は、 ソウル特別市(日本の政令指定都市に相当。道には所属せず、道と同等の自治体)、広域市(日本の政令指定都市に相当。制度的には日本の行政区に近い)、特別自治市(区や郡・市を置かない広域自治体)、道の4類型があります。
基礎自治体は自治区、郡、市が該当します。首長は公選で任期は4年、再選の制限はありません。
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