韓国を代表するノンバーバル(非言語)パフォーマンスとして知られる「JUMP(ジャンプ)」はテコンドーやテッキョンなど韓国の伝統武術を取り入れた、アクロバティックでスピード感あふれる笑いたっぷりの公演です。「JUMP」専用劇場には連日多くの人が訪れています。その人気の舞台を影で支えるスタッフの一人が「JUMP」の企画運営会社であるYEGAM INC.の和田めぐみさん。「JUMP」を世界中の人に見てもらいたい!と小柄で楚々とした雰囲気からは想像もつかない情熱を秘めている和田さんに「JUMP」の魅力やお仕事について鍾路の事務所でお話を伺いました。
※「JUMP」専用劇場は移転しました。記事内の内容は移転前の鍾路(チョンノ)「JUMP」専用劇場のものです。
名前 和田めぐみ(わだめぐみ)
勤務先 YEGAM INC.
年齢 31歳(1978年生)
出身地 島根県
在韓暦 4年
経歴 茨城大学を卒業後、地元の美術館運営会社に勤務。2006年にワーキングホリデービザで渡韓し、延世大学の語学堂で韓国語を学びながら「JUMP」専用劇場でアルバイトを開始。2007年にYEGAM INC.に入社し、現在、海外マーケティング及び広報の日本担当。
アルバイトで出会った衝撃の「JUMP」公演
初めて韓国に来たのは大学3年生の時です。姉妹校である忠清北道(チュンチョンプット)の清州(チョンジュ)にある大学での10日ほどの滞在がとても印象的で、韓国で暮らしてみたいと思い、翌年に交換留学生として清州で1年間を過ごしました。
まったく
韓国語が話せなかったので半年間は夢中でしたが、留学中はとても楽しかったです。大学卒業後に就職し、その後一度も韓国を訪れる機会がなかったので、このままでは韓国語を忘れてしまうと思い、語学留学を決意しました。
はじめは
延世大学の語学堂の5級に入り、その後、知人の紹介でアルバイトを始めました。それが「JUMP」専用劇場でのお客様案内係の仕事でした。アルバイト初日「まず公演を観てください」と言われて見た「JUMP」に衝撃を受けました。
俳優が体ひとつでこんなに表現ができるのかということ、その躍動感にすっかり魅せられてしまい、これはたくさんの人に見てもらいたいと思うようになりました。日本では東京や大阪などの大都市を中心に演劇やミュージカルの公演が行われるため、実はコンサート以外のこうした公演を見るのが初めてでした。大きな感銘を受けましたね。
「JUMP」専用劇場
アルバイトをしながら韓国語の実力をもう少し伸ばそうと考え、再び延世大学の語学堂に通い、6級を卒業しました。
「JUMP」公演は夜なので、午前中は学校、夜はアルバイトという生活でした。お客様案内係の仕事はお客様が「JUMP」をご覧になって楽しんでいる様子を直に見ることができたのがよかったです。
様々な業務においても毎日が勉強でした。私自身が「JUMP」に関わっていたいという気持ちが強くなり、上司に話をしていたこともあってか、丁度、「JUMP」専用劇場が出来た頃で日本へのPRを進めていく時期と重なり、アルバイトを始めて約1年後に晴れて社員として採用となりました。
「JUMP」広報のために駆け回る毎日
現在は海外マーケティング及び広報の日本担当として勤務しています。主な業務は「JUMP」公演を販売している旅行会社への働きかけや新聞社、放送局、雑誌社などメディアへの広報、取材時の対応などです。
取引先などから日本人がいると細かいニュアンスまで感じ取ってもらえるので安心できますね、と言われることがあり、それが会社における私の役割であると認識しています。旅行計画のひとつに「JUMP」を加えてもらうにはもっと広報が必要だと思います。
露出をできるだけ増やせるように旅行商品をはじめ、特に雑誌や新聞などに取り上げてもらえるよう力を入れています。今はすべてが下地作りの段階なので細かい日々の積み重ねが、今後私共が「JUMP」を広報していくにあたり大切になると考えています。
「JUMP」と同じノンバーバルパフォーマンスで知られる「NANTA(ナンタ)」に比べると認知度や観客動員数には、まだまだ大きな開きがあります。しかし、それは成長する余地があることだと考えて、必死に頑張っているところです。
韓国通で知られるIKKO氏
放送局の取材を受けた時に視聴者として見ていたテレビの番組作りの裏側を見ることができたのは印象深いですね。芸能人に会えた時はちょっとミーハーになりました(笑)。
うつみ宮土里さんが「JUMP」の俳優にインタビューする機会があり、撮影中は通訳がいましたが、その他は通訳なしで俳優たちと楽しく話されていたので、韓国がお好きなんだなと感じました。IKKOさんもハードスケジュールであってもサインに丁寧に応じるなど、ファンを大切にしておられると思いました。
日本のお客様に満足していただけるサービスとは
上司と相談中
日本人の視点が必要だという理由で私が現在の仕事をしていますが、韓国企業で働き、韓国社会で生活していると、知らないうちに「日本」が抜け落ちてしまい、はっと思う時があります。
日本人だから日本の心を持っているのではなく、日本にいるから日本の心を感じられるんだなと気付いた時に、日本のルール、日本人らしさ、日本人の心を保つとはどういうことだろうかと考えることがあります。韓国では気付かないですが日本に帰ると、例えばぶつかっても謝らない自分がいるとか(笑)。
日本のお客様に安心して「JUMP」を楽しんでいただくために、劇場内を快適な環境にするのも私の役割ですが、大事なことを見落としているのではと不安になることがあります。日本に帰国して韓国に戻ると新たな目で劇場を見回せるので、新しい提案が浮かぶことがあります。
現在、劇場の案内係はすべて韓国人スタッフです。日韓のサービス精神の違いがあり、例えば挨拶の際は笑顔を忘れない、質問に対する回答の仕方、最後のお客様が劇場を出られるまではきちんとお見送りをする、劇場内、化粧室は常に清潔を保つ、などをはじめとし気付いたことは韓国人スタッフには話をしています。
ここは外国であるので、すべて日本式にするのではありませんが、日本人が満足できるサービス精神について研究し、私たちができることは改善していく必要があると思っています。現場のスタッフとも具体的な話ができるので、1年間案内係をした経験が今、役に立っています。
現在も毎日ではありませんが、お客様と接することのできる貴重な機会なので可能な限り公演前には劇場でお客様をお迎えしています。様々なご意見を頂く場であり、劇場までの案内地図がわかりにくかった、というような意見があればすぐに反映させるようにしています。
「どの公演を見るか迷ったけど、JUMPにしてよかった」と言っていただけた時は嬉しかったです。「楽しかった」と笑顔で劇場を出られるお客様の顔を見ているとやりがいを感じますし、この仕事をしていてよかったと思いますね。
誤解を生まないためには、はっきりと主張することが大切
職員40名のうち2名が日本人です。企画運営会社ということもあり、自由な社風で自分の意見やアイディアを気軽に上司に言える雰囲気があります。ただ、初めは文化の違いで悩みました。日本は言葉で表現するだけでなく、そこに含まれるものを察する、匂わせるという文化がありますが、韓国は言葉ではっきり表現する文化だと思います。
相手のことを考えたつもりで、婉曲に言ったり、あえて言わなかったりすると相手には伝わらず、かえって二面性があると誤解されます。そのことが業務上に響くと問題なので、仕事だと割り切って今は100%言うようにしています。
相手のストレートさに傷つき落ち込みもしましたが、冷静になってみると私にだけ言うのではなく、周りの皆がそうなんです。主張もしますが、他人から指摘されると受け入れて変えていく。見習うべき部分だなと思いました。
週末は自宅で韓ドラ三昧
キム・ボム
プライベートはインドア派なので、休みの日は家で
韓国ドラマを見ています。今のお気に入りは「チブントゥルゴハイキック(MBC 日日ドラマ)」「ポソッビビンバ(MBC 週末ドラマ)」「クデウソヨ(SBS 週末ドラマ)」です。
イ・ジュンギ、
キム・ボム、ソン・スンホンが好きですが、俳優が好きというより、ドラマにはまると出演俳優を好きになるというパターンですね。チ・ジニだけは「
チャングムの誓い」以来のファンでチ・ジニが出ているドラマなどはチェックします。
チ・ジニ(右)
イ・ジュンギ
ドラマを見ることが韓国語の勉強だと思って見ています(笑)。聞いたり、話したりは問題ないのですが、書くのは不十分なので、仕事の書類を作りながら文法の勉強をしてみたり、気になることを仕事の合間にちょこちょこっと解決していますね。
今は基礎的なことよりも細かなニュアンスの違いなどを職場の同僚に尋ねたりして、韓国語らしい表現を身に付けたいと思っています。仕事上ではお客様に対しては丁寧語をきちんと使えるようにと意識しています。
ソウル深夜のタクシーは乗車拒否も少なくない
韓国に適応して全体的に困っていることはあまりないのですが、一つだけ不満があります。夜遅く
タクシーに乗ろうとすると乗車拒否されますよね?あれは本当に困ります。近くても乗せてほしいです。何とかして改善してほしいです。
いつ見ても新鮮!「JUMP」ロングランの理由は?
イム・チョルホPDは元「JUMP」の俳優
「JUMP」所属の俳優は現在80名(韓国74、中国4、モンゴル2)です。「JUMP」の初演は2003年で俳優を2年間訓練して幕を開けました。スポーツ選手としての技術はあっても俳優としての表現力を持つ人材がいなかったからです。
今は逆に武術や体操の経験者が自分の技術を生かしたいと応募するケースが増えました。現在は俳優育成カリキュラムがあり、専属のコーチがいるので、様々な出身の人たちが「JUMP」にふさわしい俳優になるための訓練が効率的に行われるようになっています。
リハーサル風景
9つの役柄はすべてオーディションで選ばれ、現在俳優は8チームに分かれ交替で公演を行い、チーム編成も定期的に変更します。2006年に専用劇場がオープンしてからは内容に大きな変更はなく、海外公演の際にショードクターと呼ばれる演出家に依頼して、公演先の文化圏で受け入れられやすいようアップグレードを行います。
その結果がよければ本公演に反映することがあります。同じ内容の公演ですが、舞台は生き物なので、同じ瞬間は二度とありません。私も何度も見ていますが「JUMP」は飽きませんね(笑)。
リピーターのお客様の中にはあの俳優はいつ出るの?と役者の個性を楽しみに見てくださっている方もいます。ロングランを続けているのは俳優陣と制作スタッフが日々、演技や技術を磨く絶え間ない努力をしているからで、だから何回見ても楽しんでいただけると思います。
ソウルに行ったら「JUMP」を見よう、を目標に
客層の割合は韓国人と外国人が半分ずつで、外国人のうち6割ほどが日本人です。韓国人の場合はおもしろいと評判なので、子どもに見せたい、両親のプレゼントに、会社の福利厚生にというケースが多く、小・中・高の課外授業の一環となることもあります。
普段、舞台芸術に接したことのない人も楽しく見られ、そのおもしろさを伝えているのが「JUMP」だと思います。また日本人が見るとなぜおかしいのかわからない場面で韓国人がどっと笑う、そんな笑いの文化の違いを「JUMP」の客席で感じることもできると思います。
ソウルに行ったら公演を見よう、公演を見るなら「JUMP」を見よう、その流れを作るのが今後の目標です。
★和田さんおススメのお店★
「JUMP」専用劇場と同じ通りにあり、隣のブロックにあるコンビニ「Buy the way」のすぐ横にあるベトナム料理のお店。ランチタイムのフォーとベトナム式チャーハンのセット(5,500ウォン)が和田さんのお気に入りで週に2~3回行くこともあるそうです。フォーはあっさりとした味わいで、チャーハンは少しピリ辛ですが小量なので女性には適量。フォーにモヤシをたっぷりと入れればシャキシャキ感を楽しめます。「JUMP」開演前の軽い食事にいかがですか?(ラストオーダー21:30のため20時公演の終演後は利用が難しい)
「SEN」
住所:ソウル市鍾路区(チョンノグ)貫鉄洞(クァンチョルドン)5-14
電話番号:02-2274-0420
インタビューを終えて・・・
話の端々から「JUMP」大好きという思いが溢れる和田さん。非常に丁寧で正確な口調でお話になりますが、韓国語だとさらにパワーアップしてアグレッシブになっているような気がします。ストレートがモットーの韓国社会での影響でしょうか?!「韓国の魅力は自由なところ。海外で暮らすという責任感はありますが、型にはまらず自由になれる部分があるように思います。もし、韓国に行きたいと考えている方は躊躇せずに、行ってから結果を考えてもいいと思います」とのこと。「JUMP」をこよなく愛する和田さんが劇場で皆さんを待っています。ソウルにお越しの際はぜひ「JUMP」をご覧ください。
YEGAM INC.(イェガム)
ノンバーバルパフォーマンス「JUMP」の企画運営会社。「BREAKOUT」「ファジャンウルコチゴ」などの作品を企画上演している。「JUMP」はアメリカ、イギリス、中国、ロシア、日本など海外公演も多数。高い評価を受けている。ソウルと釜山に「JUMP」専用劇場を保有しており、2008年4月には3000回公演を達成。2009年11月には鍾路「JUMP」専用劇場2館がオープンした。
住所:ソウル市鍾路区(チョンノグ)貫鉄洞(クァンチョルドン)33-1 鍾路シネコアビル9階
電話:02-722-3995
ホームページ:
http://www.yegam.com