韓国旅行「コネスト」 第32回~緒方恵子さん(安東市庁) | 日韓わったがった ―韓国で、はたらく。 | 韓国文化と生活
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第32回~緒方恵子さん(安東市庁)

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韓国の中東部、慶尚北道(キョンサンプット)安東(アンドン)市は「韓国精神文化の首都」と言われ、仮面舞河回村(ハフェマウル)陶山書院(トサンソウォン)など、韓国の名だたる文化財が数多く残されている街です。古き良き伝統が残されている一方、保守的であるとも言われている土地柄であり、外国人の多いソウルとは大きく雰囲気が異なります。その安東の市庁で韓国初の外国人公務員として勤務しているのが緒方恵子さん。公務員という硬派なイメージとはうってかわり、韓国ドラマが大好きで最近はご主人と一緒に人気ドラマ「善徳女王」を見ているという気さくな緒方さんに来韓のきっかけや現在のお仕事について安東の市庁舎でお話を伺ってきました。

名前 緒方恵子(おがたけいこ)
勤務先 安東市庁観光産業課
年齢 31歳(1978年生)
出身地 熊本県
在韓暦 9年9ヶ月
経歴 北九州市立大学を卒業後、2000年3月に渡韓。韓国外国語大学語学院で韓国語を初級クラスから学んだ後、2001年8月に同大学大学院日語日文化学科入学、2003年8月に修士号を取得。2003年9月から韓国初の地方自治体の外国人契約職公務員として勤務し、安東市の広報活動などに携わり、現在6年目を迎える。
半分家出状態?!一言も韓国語が話せないままソウルへ
大学で比較文化を専攻していた時、日本語系統論という講義で日本語と韓国語の共通点など言語的な結びつきについて学び、韓国語に非常に興味を持ちました。

また北九州は八幡製鉄所があったことから戦時中に強制連行された韓国人が多く住む地域で、そうした人たちを対象にした識字教育が大学で行われており、私はボランティアで参加していました。その時にお年寄りが話して下さった韓国の話、韓国語に触れ、隣国でありながら全く知らなかった韓国に興味を持つようになりました。
当時は韓流ブームの前で、韓国語を学ぶには韓国に行くしかなく、思い切って留学に踏み切りました。アルバイトで1年間の学費と生活費を準備したものの、両親を説得しきれないまま韓国外国語大学語学院に入学しました。レベルテストでは自分の名前もハングルで書けず漢字で「緒方」とだけ書いて、テストの間、じっと座っていました。今考えても、とっても無謀ですよね(笑)。
より韓国を知るために語学から文化へ、ソウルから地方へ
韓国外国語大学
韓国外国語大学
韓国語は韓国ドラマをひたすら見て、会話をノートに書き取ったり、アメリカドラマを韓国語字幕で見たり、1日5時間くらいテレビを見て勉強しました。韓国人学生と一緒に住んでいたので、遊びに出かけたり、ボランティアに参加したり、韓国人と話す機会も多く作りましたね。

そして、1年後に語学だけでなく、文化や比較言語学を勉強しようと大学院に進学し、2年で修士号を取得することができました。その時に勉強だけで終わってしまうのではなく、地方文化を学びたいと考えていたところに、安東市庁の外国人契約職員の募集を目にしました。
日韓合作ドラマ「フレンズ」(主演:ウォンビン、深田恭子)で、ウォンビンの故郷が安東という設定だったんですよ。安東についてはドラマを通して、両班(ヤンバン)の街、保守的だけど文化が残っている街というイメージがあるだけで、一度も訪ねたことがないものの応募だけでもと思っていたら、合格することができました。当時、外国人契約職は日本語、中国語、英語担当の3名が採用されました。
韓国人の「情」に励まされ、安東での生活に自信が芽生える
安東市庁舎
安東市庁舎
安東市庁が公務員として外国人を採用するのは韓国の地方自治体として初の試みでした。

私にとっても初就職であり、毎日が緊張の連続で初めは互いに距離がありましたが、仕事を通じて次第に打ち解けていきました。

ただ、日本は余裕を持って計画を立てて、物事を詰めていくのに対し、韓国は直前までエンジンがかからないという違いがあり、戸惑いました。
韓国メディアの取材も多数
韓国メディアの取材も多数
姉妹都市との事業となると日本側からは1ケ月~2ケ月前になると日程が出ますが、韓国側は1~2週間前でも大丈夫という具合に感覚の差があり、日本側から「まだか、まだか」と何度も問合せがあります。よく言われるのが「日本人はせっかちでナイーヴ」。

時として、両者の板ばさみになることもあります(笑)。初の外国人公務員としてテレビなどで紹介され、道を歩いているとじっと見られたり、市役所にお年寄りが訪ねて来たりしました。
安東は独立運動家をもっとも多く輩出した土地なので、日韓の歴史について何か言われるのかと身構えましたが、昔、日本に住んでいたことや日本の友人の話、当時のくらしについてなどを、私が日本人であることに親近感を持って、ただ話をするためだけに来てくださいました。中には大邱(テグ、安東から南へ車で約1時間)から来た方もいます。
頑張ってくださいと言われ、驚きましたが本当に励まされました。安東に来て1年半を過ぎた頃に交通事故で肩を脱臼し、1ヶ月ほど腕が使えませんでした。その時、市庁の同僚が毎朝家まで来て、身の回りの世話をすべてしてくれました。

ちょうど秋夕(チュソク)でしたが、帰省の予定を繰り上げて祭祀(チェサ)の立派な料理をお裾分けしてくれたり、寂しいだろうからと外に連れ出してくれたり。
安東に来たばかりの頃、地方は少しおせっかいだと感じましたが、この時に家族のように扱ってくれる情を感じて、一人でもこの土地でならばもう少しやっていけそうだという自信が湧いてきました。
地元のラジオ番組にも出演、多岐にわたる仕事内容
日本語の印刷物をチェック中
日本語の印刷物をチェック中
私の仕事は市庁に関する翻訳や通訳、観光案内、日本での各種観光博覧会への出展、姉妹都市関連の業務など、広報を中心とした業務です。

副市長の通訳を務めた時に、頭の中は日本語なのに口から出てきたのが韓国語だったということがあります。副市長に「日本語で話しなさい」と止められて気付きました。長く韓国にいるせいでそうなったのか、忘れられない大失敗です。
季節ごとの話題を寄稿
季節ごとの話題を寄稿
2009年5月からは安東のKBSラジオに出演しています。職場の同僚である中国人の方と交替で2週間に1度、外国人からみた安東、韓国について話すという5分ほどの番組です。緊張して難しいですが、とても楽しいです。

ネタを探すのが大変ですが、結婚の風習の違いや日本でのBBクリーム人気など、身近な話題を中心にラジオを聴いた方からの反応やアドバイスを受けながらやっています。台本を見ずに自然に話すのが難しいですね。この他には読売新聞とビートル号(釜山、博多間就航)が共同で発行しているタブロイド紙に寄稿などもしています。
在日韓国人1世のルーツ探しでの出会い
最近増えているのが在日韓国人1世からの戸籍の確認や整理、一度故郷を見たい、族譜(チョッポ、一族の系図を記したもの)を探したい、という問合せです。私にもわからないことが多いのですが、韓国語を話せないお年寄りが一生懸命探しているのを見ると、何とかお手伝いしたいと思います。

総務課や戸籍課に協力してもらったり、自ら安東権氏(姓である権(クォン)の前につく地名は家系の始祖の出身地を示す本貫(ポングァン)と言われるもの)の宗家に訪ねるなどして調べたりします。
中でも1年半かけてお手伝いをした方が60年ぶりに親族に会うことができ、私もその場に立ち会わせてもらいましたが、涙が出ました。その時に、安東で公務員をしているからこそ、こうした出会いがあるのだと思い、途中で辞めたり放棄したりできないなと感じました。
上司の林(イム)係長と
上司の林(イム)係長と
普段、日本語で話す機会もないので、日本の方が訪ねて来ると嬉しいですし、役に立ちたいと自然に思います。観光、広報が私の主な業務ですが、在日韓国人1世の方のルーツ探しのお手伝いも行政サービスのひとつだと考えています。

安東市長も過去の歴史を乗り越えて民間で連帯感を持つことの必要性を感じておられるので、市長からは大変だろうが頑張ってほしいと言われています。この仕事には私一人の力ではなく、多くの方々の協力が不可欠なので、本当にたくさん助けて頂いています。
郷土意識の強い安東、方言にも苦戦
ソウルから安東に来て感じたことは、韓服(ハンボッ)を着ているお年寄りが多い、イベントの多くが儒教にまつわるもの、同族意識が強いということでしょうか。例えば同じ姓の金さんが初対面で挨拶する場合、ソウルでは日本と変わりませんが、安東では「どちらの金さんですか?」と本貫を尋ね、何派、何代目まで尋ねます。安東金氏や安東権氏の新年会が市民会館で盛大に行われているのを見ると、やっぱり違うなと思います。方言も大変でしたね。ソウルで3年間勉強したことが何一つ助けにならないと思ったほどで、安東に来て一から勉強しなおしました。
仲良しの友だちと結成した女性ばかりのジュジュクラブとは?
安東に来てしばらくは年齢の近い友だちができなくて、寂しい思いをしたこともあります。外国人ということで市庁の上司が気を遣って下さり、年齢の高い方々にいつも囲まれていました。友だちに言わせると近づきにくい雰囲気があったそうです(笑)。

市庁内にも年齢の近い友だちができると週末は友だちとマッサージやショッピングに出かけ、女性ばかりで酒酒(ジュジュ)クラブという会を作って週に1度、飲みにも行っていました。1次会は焼酎2本、2次会は爆弾酒、3次会は女性らしくバーでカクテルというのが定番です(笑)。
多くの人に祝福された伝統結婚式
2009年の5月に同じ市庁に勤める人と結婚しました。結婚式はせっかく安東にいることもあり、現代式ではなく、伝統結婚式にしました。チマチョゴリ(韓服、ハンボッ) ひとつ調えるにも何もわからないので、市庁の方々をはじめ友だちに1から10まで手伝ってもらいました。

この方たちがいなければ安東に6年間もいなかったと思います。サムルノリも呼んでお祭りのように賑やかな結婚式となり、多くの方が来て下さいました。安東での就職を反対していた日本の両親もとても喜んでくれて、たくさんの方に支えられているのを見て安心したと言ってくれました。
安東の魅力を子どもたちに、より多くの人たちに伝えたい
結婚をして、子どもももうすぐ生まれます。どこまでできるかわかりませんが、子どもには韓国と日本の文化を両方正しく教えていきたいし、偏見を持たずに2つの国を行き来して、橋渡しができるような子どもに育てたいです。

仕事の面では2013年に慶尚北道の道庁所在地が安東に移転することが決定したので、私も安東だけでなく、慶尚北道全体への知識を深めて、成長したいと思います。
河回村
河回村
安東には儒教文化の街という堅いイメージがありますが、難しいものではなく、日本人が昔見て、感じたような風景や風習が残っているのが安東だと思います。

河回村も両班(ヤンバン)の村と言われますが、私が行っても懐かしいと感じる風景であり、そこで出会う方々には田舎のおじいちゃん、おばあちゃんのような親しみを感じます。日本で見ることができない文化を安東で感じて頂けたらと思います。
韓国にぶつかって、自分の殻を破ろう
無謀な感じで韓国に来ましたが、そんな私を受け入れてくれたのが韓国。日本人には本音と建前がありますが、韓国人は本音、感情で生きていると思います。

時にはそれに振り回されるけれど、時には私を心から家族のように扱ってくれる情を感じます。これから韓国に行こうと考えている人には怖がらずに韓国にぶつかって行ってほしいですね。

自分の殻を破るには一番いい国だと思います。私も破れたというか、破られましたから(笑)。
★安東チムタク★
市場入口
市場入口
安東名物と言えばチムタク。鶏まるごと一羽をぶつ切りにし、醤油、砂糖をベースにした甘辛いタレで煮込んだ料理。鶏肉の他に大きめに切ったジャガイモやタンミョン(春雨)、エホバッ(韓国カボチャ)、ニンジン、そして大量の唐辛子が入ります。

実は1980年代に登場した新しい料理で安東が発祥の地。安東市庁からすぐ近くにある安東旧市場(アンドンクシジャン)はチムタク専門店が軒を並べていることで有名。
市場の様子
市場の様子
卵型の看板はすべてチムタクの店
卵型の看板はすべてチムタクの店
緒方さんにご紹介頂いたのが、市場入口すぐのチムタク専門店「チョンソン」。写真は1羽で20,000ウォン(3~4人前)。

辛いのは苦手だそうで、激辛の唐辛子(チョンヤンコチュ)は抜いてもらうそうです。今回も唐辛子を抜いてもらったので、ピリリと甘辛いという程度。鶏肉はやわらかく野菜もたっぷりです。

チョンソン
アクセス:安東市庁から徒歩5分。国道35号線を南へ。安東旧市場西ゲートすぐ。
電話:054-855-9457
インタビューを終えて・・・
朗らかながらも、折り目正しい日本語で静かに話される緒方さん。外国人という立場で誠実に安東という文化に向き合って来られた真面目なご様子から、年齢層の高いお知り合いが多いというのにも頷けます。市庁内での取材中に「恵子さ~ん」と職員のおじさまから声をかけられるのを見ても、好感度抜群であることは間違いありません。自然が多く、スローペースな安東は故郷熊本と共通点があるとか。保守的で我が強い部分も熊本の人と安東の人は少し似ているそうです。偶然のめぐり合わせとは言え、安東とは深い所縁があるのでしょう。人との出会いに感謝しているという緒方さんですが、人との接点をきちんと紡ぎ出していこうと努力する方だという印象を強く受けました。
安東市庁
人口168,000の安東市の行政、財務、文化、教育、福祉を取り扱う。安東市は慶尚北道北部の中心都市であり、ソウル、釜山までそれぞれ3時間程度の距離にある。200を超える多様な文化財を保持し、歴史と文化の街として知られる。毎年秋に開催される「安東国際仮面舞フェスティバル」は有名。特産品は山芋、りんご、塩サバ、菊花茶、安東焼酎など。2013年には慶尚北道の道庁所在地となる予定。
住所:慶尚北道 安東市 市庁路6
電話番号:054-856-5701
ホームページ:http://www.andong.go.kr(日本語あり)
韓国旅行おトク情報
  最終更新日:09.09.18
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