韓国旅行「コネスト」 第29回~森田松己さん(ホテル新羅「有明」) | 日韓わったがった ―韓国で、はたらく。 | 韓国文化と生活
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第29回~森田松己さん(ホテル新羅「有明」)

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韓国を代表するホテルであるホテル新羅。各国の要人を迎え入れているだけにホテル内のダイニングはレベルが高く、味とサービスの良さで有名です。その中でも日本料理店「有明」は、韓国で本物の日本の寿司が食べられる、韓国で一番美味しい寿司店と有名です。その仕掛け人が銀座の名店「きよ田」から日本の寿司文化を伝えるためにやってきた料理人、森田松己さん。今や韓国の名士から大きな支持を得ている「有明」ですが、来韓当初は日本の寿司が理解されなかったこともあったとか。日本の寿司を伝えるために、どんなご苦労があったのか、南山の眺めが美しい「有明」でお話を伺ってきました。
名 前 森田松己(もりたまつみ)
勤務先 株式会社ホテル新羅「有明」 
年 齢 42歳(1967年生)
出身地 千葉県
在韓暦 6年3ヶ月
経 歴 家業の寿司店で基礎を学んだ後、千葉県柏市にある和食店に5年間勤務。その後、銀座「きよ田」現店主の木村正氏と出会い、家業と木村氏の和食店を兼務。木村氏の「きよ田」継承に伴い、「きよ田」勤務となり、2003年2月から渡韓、ホテル新羅日本料理店「有明」の寿司部門責任者として勤務。
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韓国に行ってこい、親方の一言で2ケ月後にはソウルに
ホテル新羅が日本料理、中でも寿司専門の料理人を探しているという話が親方(銀座「きよ田」店主、木村氏)のもとに届いたのが韓国に来るきっかけでした。韓国に行ったこともなく、韓国語もまったく話せませんでしたが、2ケ月後にはソウルに来ていました。

私がまかされた仕事は扱う魚介類と料理人の教育を中心とした店全体のレベルアップでした。韓国では日本料理店を「日式」という看板で表しています。食べてみれば明白ですが、正確に言うと「韓国スタイルの日本料理店」です。
私は2003年に韓国に来た時、ソウル市内の有名ホテルの日本料理店にはすべて行ってみました。寿司も当然メニューにありますが、日本の寿司ではありません。もちろん、その土地の人たちの嗜好にあわせてアレンジすることはひとつの文化であり、いいことだと思います。しかし、私に求められたのは、「日本の寿司」を韓国の人たちに伝えることでした。
韓国スタイルではない「日本の寿司」を伝える
日本の寿司は食べやすい一口サイズ
日本の寿司は食べやすい一口サイズ
「日本の寿司」と言っても、はじめは受け入れてもらえませんでした。日本の寿司、特に銀座の寿司は小振りですが、韓国では寿司ネタは大きいのがよいとされていました。また、韓国の寿司店では、寿司以外にもつき出しとして生野菜など韓国式のおつまみが豊富に出されます。

しかし、日本では寿司をそんな風には食べませんよね。つき出し類は一切廃して、寿司の大きさも日本と同じく小さくしました。つき出しが出ない、魚が小さい、ケチっているのではないのか、という声もあり、はじめは大変でした。
私が来た当初は洋酒を飲み、生野菜に味噌をつけて食べながら、寿司をつまむという方もいましたから。でも、韓国のお客様の中には「日本の寿司」をご存知の方もいて、私のスタイルを望んでいた方もいました。

韓国風にアレンジされた寿司ではなく、「日本の寿司」を求めて、こちらに来られるお客様がいます。そうしたお客様に支えられてここまで来ました。最近は日本酒を飲まれる方が増えましたよ。2006年に店内を改装してからは、30~40代の若いお客様も増えました。今は常連のお客様も多く、よい関係ができていると思います。
極上マグロは築地から、莞島をはじめ韓国各地から新鮮な魚を直送
韓国の水産市場
韓国の水産市場
寿司のネタとなる魚介類は週に2回、韓国南部にある莞島(ワンド)から届けられる他、釜山のアナゴ、済州島のサバやイカなど各産地からも直送されます。はじめはソウルの水産市場にも行ったのですが、納得のいく魚を手に入れることができませんでした。

大きな水槽によいものも悪いものも一緒になっていて、いいものだけを選ぼうとしたらおばちゃんに怒られました(笑)。東京・築地市場であれば魚はランク別に分類され、ひとつひとつ選ぶことができますが、韓国と日本では仕組みが違うので仕方がありません。
それで購買チームと一緒に産地に直接買い付けに行くようになりました。よいアナゴを確保するために真空パックの機械を釜山まで持ち込んで何十キロとソウルに送ったこともありました。
韓国各地から直送
韓国各地から直送
寿司に適したよい素材を集めるには、産地も重要ですが、我々がどんな素材を求めているのか、購買チームや産地の人たちに理解してもらうことが必要です。

幸い、購買チームに済州島のホテル新羅の料理人出身で「きよ田」や築地市場で研修した経験があるスタッフがいて、料理人が望むものは何かを理解しているので助けられています。

彼の魚の目利きと協力のお陰で、今は産地に注文さえすれば、望む魚を送ってもらえるようになりました。
築地直送のトロ
築地直送のトロ
「有明」の売りとして、築地市場からも素材を輸入し、マグロはすべて日本産です。日本近海で捕れる高級生マグロを仕入れ、トロは一切れ25,000ウォンと銀座で食べる寿司よりも高い値段設定にしても利益はほとんど残りません。

リスクはありますが営利的な目的以上に、ホテル新羅が「日本の寿司」を伝えるんだというプライドをかけてやっています。
料理人の意識改革のために日本研修を実施
美味しい寿司を作りだす料理人の手
美味しい寿司を作りだす料理人の手
私が来た当時、スタッフに「きよ田」流の寿司を教えるのには少し苦労しました。日本料理人として10年のキャリアのある人もいましたので、握り方から教えなおすのは現実的に難しく、形とサイズだけを徹底しました。

身についてしまった癖を直すのは大変なので、そこは柔軟に指導しました。難しかったのは技術的なことより、精神的な面です。日本の料理人は、特に心構えを大切にします。

「寿司は心を込めて握れ」と言っても、文化的な背景が違うので韓国人には、言葉だけではピンとこないのです。技術面をより重要視する人もいますが、しかし、料理人の心構えは決しておろそかにできないことなので、言葉よりもやって見せて示すことで伝えました。

そういう意味で、料理人の意識改革にも手をつけました。料理人の中で日本に一度も行ったことがない、日本の文化を知らないという人もいましたので、完全に日本スタイルの寿司を提供する上で、「きよ田」に研修に行ってもらうことにしました。
寿司を食べながら、生野菜を食べたいと思う料理人だったら、お客様に対して説得力がありませんよね。わずか3ケ月の短い研修期間ですが、結果として、非常によかったです。

料理人は教わるよりも、自分で見て、自分で学ばないといけませんので。築地市場や「きよ田」での経験を通して、「日本の寿司」を肌で感じてもらえました。
日本と韓国、料理人の立場の違いにカルチャーショック
韓国に来て料理人の地位が低いことにカルチャーショックを受けました。日本であれば、職業として料理人は憧れの対象でもあり、社会的にも認められています。また、お客様は料理人を非常に大事にしてくださいますが韓国では様子が違いました。

いくら寿司が日本の文化でそれを伝えると言っても、料理人を低く見るという雰囲気があったことは事実です。だから料理人が勉強しなかったんだと思います。美味しい料理を一所懸命作ろうとしている料理人を少しでも認めてくれたら、韓国の料理人ももっと頑張っただろうに、と残念に思いました。
最近は韓国でもグルメ番組が増えたことなどもあり、雰囲気はずいぶん変わりましたね。「有明」のお客様は私たち料理人をとても大事にしてくださいます。
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休日は地下鉄へ、休暇は地方へ
ソウル地下鉄
ソウル地下鉄
韓国に来た当初、休日はよく地下鉄に乗っていました。ホテル新羅のある3号線を皮切りに、ソウルの地下鉄を端から端まで一日中乗って、気が向いたら降りる。ソウルの地下鉄は全部制覇しました。

ふらりと途中下車して散策しているうちに道に迷うこともしばしばありましたが、タクシーに乗って「ホテル新羅」と言えば戻って来れるので、困りませんでしたよ(笑)。
ラーメンやハムなどが入ったプデチゲ
ラーメンやハムなどが入ったプデチゲ
韓国料理も好きで、最初にはまったのがプデチゲ。週に1度は食べていたら、5キロも太ってしまいました。世界に紹介したい韓国料理を挙げるなら、カンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け)ですね。

醤油の風味が日本の漬物を思わせるようなところもあり、ご飯泥棒の名の通り最高です。昼は仕事の関係で辛いもの、味の濃いものは食べないようにしていますが、仕事を終えたら夜は韓国料理もよく食べます。
海割れで知られる珍島
海割れで知られる珍島
単身赴任で来ているので、ゴールデンウィークや夏休みなどに家族が遊びに来た時は、済州島など地方旅行にもよく行きます。

子どもが珍島犬を見たいというので珍島(チンド)にも行きましたし、先日は、お茶の産地として有名な宝城(ポソン)にも行きました。

忙しくて余裕もなく、いろいろ辛いこともありましたので、家族と離れて暮らしている方が気楽になれる部分もあり、かえってよかったのかなと今は思います。
NHKワールドで地球が出てきて少し悲しげな音楽が流れる番組があるのですが、韓国に来た当初はそれを見るとなんだか悲しくなって、今でもそれを見ると当時を思い出して少し悲しくなります(笑)。
若い料理人を育て、ソウルの寿司のレベルアップを目指す
1年の契約でしたが、韓国に来て3ヶ月で日本に帰りたいと思いました。でも、親方は私を信じて大事な仕事を任せてくれて、ホテル新羅の人たちにも受け入れてもらったのですから、辛いと言って帰ったら恥ずかしいし、後悔すると思って踏ん張りました。

帰るのは簡単ですからね。明日帰ればいいか、明日帰ればいいかと思っているうちに6年経ちました。「日本の寿司」を受け入れてもらえず、ホールにお客様はいるのに寿司カウンターには誰もいない、という時期もありました。
そんな時にも、韓国人が好む味にしろ、メニューを変えろ、価格を安くしろ等、普通であれば言われることを一言も言われませんでした。社長や上司である料理長はじめ、スタッフたちが黙って見守ってくれたのは有難かったです。

ちょうど1年経った時に社員にならないかと言われました。外国人が社員になったのはホテル新羅の歴史の中でも特例なことだそうです。悩みましたが、助けてくれた人たちの力になりたいと思い、決心しました。いずれは日本に戻りますが、私がここで必要とされている以上、もうしばらく韓国にいて頑張ろうと思います。
これからの夢は料理人の学校のようなものを作って、若い人を育てていきたいです。日本料理について言えば、韓国は日本のように店で修行するというスタイルがなく、料理学校で学ぶことが多いんですよ。

あくまで夢なのですが、現場を経験した人間が現場の料理人を育てていくようなことができないかと思っています。今、ソウルの主だったホテルが銀座の寿司店で働いていた人間をスカウトし始めています。「日本の寿司」を好む人が増えていることの表 われであり、ソウル全体の寿司のレベルを上げることができる状況が整ってきたのは、とても嬉しいです。
★有明★
ホテル新羅の2階に位置している日本料理店。森田さんのいる寿司カウンター13席は檜づくりで、銀座「きよ田」と同じ寸法、料理人とお客様の間合いがちょうどよく取られています。最高級の素材を使った本物の寿司、江戸前寿司の丁寧な仕事、日本でもそうそう食べることのできない極上寿司はいかがでしょうか。カウンターでのお寿司は、おまかせで10万ウォン~15万ウォン程度。

住所:ソウル市 中区(チュング) 奨忠洞2街(チャンチュンドンイーガ) 202 ホテル新羅2階
電話:02-2230-3356
インタビューを終えて・・・
「どこにいても嫌なことはありますし、韓国だから特別ということはありません。韓国にはバイタリティがあり、流行への敏感さなど、日本にない良いところもあります。」と語る森田さんはとても柔軟で前向き。美味しいものは国境を越えて理解されるとは言え、食文化という難しいジャンルの中で挑戦してこられたのは並大抵の苦労ではなかったでしょう。

しかし、お話の中からは6年という歳月をかけて「日本の寿司」を韓国に浸透させてきたことへの自負と寿司への愛情が溢れていました。信念を曲げずに進んできた森田さんの「日本の寿司」を引き継ぐ若い料理人が現われ、ソウルは美味しい寿司を食べられる街になっていくかもしれません。最後に寿司店のカウンターは緊張する、という方に森田さんからのアドバイス。「おまかせがおすすめ。料理人のプライドをかけて、不味いものはお出ししません。」
株式会社ホテル新羅
1979年開業。かつては迎賓館として使われていた場所に、韓国の文化と伝統を伝え、韓国を代表するホテルを目標に誕生したホテル。緑豊かな南山を背景に伝統美あふれる美しい庭園や迎賓館を擁し、和食、フレンチ、中華などダイニングや、スパ、免税店も有名。世界のVIPが利用する韓国最高級のホテル。
住所:ソウル市 中区(チュング) 奨忠洞2街(チャンチュンドンイーガ) 202
電話番号:02-2233-3131
ホームページ:http://www.shilla.net
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  最終更新日:09.06.05
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