SHI PLASTICS MACHINERY KOREAは住友重機械工業株式会社のプラスチック射出成形機の販売とサービスを行う100%現地法人として2000年に設立されました。プラスチック射出成形機の日本国内はもちろん、世界でもトップシェアを誇っています。韓国でも台数はトップ。現在では韓国でも高く評価されるようになりましたが、来韓当初はご苦労が絶えなかったようです。事務所のスタッフ曰く「仕事中はもの凄くコワイ人」であり「職場のムードメーカー」という玉木さんに約7年という長きに渡る韓国でのお仕事について
市庁(シチョン)にある事務所で伺いました。
名前 玉木忍(たまきしのぶ)
勤務先 SHI PLASTICS MACHINERY KOREA
年齢 40歳(1968年生)
出身地 佐賀県
在韓歴 6年8カ月
経歴 1992年住友重機械工業株式会社入社。九州営業所アフターサービス技術部門にて勤務。2002年2月、現地法人SHI PLASTICS MACHINERY KOREAに勤務。
サムソン、LG、韓国トップ企業の製品づくりを支えるプラスチック射出成形機
プラスチック射出成形機は簡単に言うと、身の回りにあるプラスチック製品を作る機械です。弊社が得意としているのは精密部品関係で、例えば携帯電話のボタン、ボディ、レンズ、コネクタや車の内装などです。
金型を交換する事によりそうした製品を生産出来るのがプラスチック射出成形機です。その成形機を販売し、そしてアフターサービス(機械のメンテナンス)や技術支援を行っています。
韓国では長年、多辺化品目政策により日本から機械や製品の輸入が規制されてきましたが、通貨危機後IMFの指導もあり1999年に規制が撤廃されたので、2000年10月に現地法人を設立する運びになりました。
プラスチック製品の一部
主な業務は技術部門の責任者として、購入頂いた機械の設置、メンテナンス、それらを行う技術スタッフの教育指導です。弊社の主なお客様はサムソングループ、LGグループなどです。世界的大企業ですから、求められる品質は非常に高く、シビアです。
モノづくりにかける熱意というのは日本も韓国も同じですね。ですから赴任した当初から言葉は通じなくても、私がこれまで日本で培ってきたことを活かすことができました。
おかわりはタダ!パンチャン(おかず)発想でメンテナンスもタダ?!
おかわり自由なのはおかずだけでない…!
大きなカルチャーショックだったのは、メンテナンスに対する考え方の違いです。例えて言うならば、韓国では食堂で主菜を注文すれば、小さなおかず(パンチャン)がついてきて、お代わりが無料ですよね。
それと同じでお客様も機械をひとつ買うとメンテナンスは無料だと思われていたことです。メンテナンスをして部品を換えたら、お客様は「タダでしょ?」。私どもは「??いえいえ、メンテナンス費用を頂きますよ」。すると、お客様が「え~っ!!」。
弊社で製作している機械は決して安いものではありません。特に韓国メーカーに比べれば倍以上の価格です。しかし一度購入頂くと、10年20年と使って頂けるものですし、費用もそれなりに発生しますがメンテナンスは非常に重要です。
お客様から、高い機械を買ったのに高いメンテナンス費をなんで払わないといけないのか、とかなりクレームを受けた時期もありました。
私は韓国のスタイルを知らなかったので、作業への対価を当然頂くと思っていたのですが、お客様から「無料でしょ?」と言われ、本当に驚きました。
韓国で暮らしてみると、電気製品など、ちょっと壊れてもすぐに無料で修理してくれることが多いので、その感覚なんだろうなと思います。でも、最初は本当に大変でした。
お客様に満足して頂くための地道な努力
先ほども言いましたが、高い機械なのでよほど付加価値の高い製品でなければ使われません。機械の性能はもちろんですが、お客様にメンテナンスの技術力の違いを実感して頂くしかないと思いました。
実は当初は機械の操作画面やマニュアルが日本語と英語しかなく、お客様に説明するには通訳を介する他ありませんでした。ところがその役割をする弊社の韓国人スタッフの技術レベルが不足していて私の話を理解できないためお客様に通じず、トラブルになるというケースも少なくありませんでした。
人を育てるというのは一朝一夕でできるものではありませんが、お客様に満足して頂けるサービスを提供するために、韓国人スタッフの技術力向上に力を注ぎました。現在、技術スタッフは私を含めて5人で、日本人は1人です。150社、およそ1,000台の機械を管理しています。今はスタッフも育ってレベルも上がり、お客様の要望に応えられる自負があります。
私は常にお客様に対して、お金を頂くべき仕事をする時は費用を頂きますが、私どもが悪いと思ったことに対してはいつでも無償で修理いたします、とお伝えしてきました。今はある程度、住友のスタイルがお客様に受け入れられ、理解して頂いている状況です。
転職サイクルが早い韓国、スタッフのモチベーションを高めるには
技術者を育てることを大きな目標として進んできましたが、韓国の方は非常に転職が多いのには困りました。技術職は3年位からようやく一人前として扱えるという仕事なので、1年や2年で辞めてしまわれると辛いですね。
弊社は業界ではネームバリューがあるので、日本と取引のある韓国企業に就職する際に有利なようです。そのように転職を利用して自分の賃金を上げていくというスタイルはアメリカのようだと思いました。
ですから頑張っている人にはできるだけチャンスを与えるようにしています。目標を設定し、それをクリアできたら海外出張を一人でまかす、日本での研修の機会を与える、休暇を十分に取らせるなどしてモチベーションを高めます。具体的な目標を提示すれば、韓国の人たちは非常に熱心で、よく頑張ってくれて、感心します。その点、日本人の方がドライだと思いますね。
「国」を越えてよいものを創り出していくために
韓国人スタッフ採用の際にポイントにしているのが、学歴よりも海外で暮らした経験です。弊社ではほとんどの業務を日本語で行います。韓国には日本語の上手な方がたくさんいるのですが、ずっと韓国に居る人は韓国の考え方に縛られる傾向があるように思います。
一度、海外に出て外から韓国を眺めた経験のある人は考え方もちょっと違います。日本企業ですが、日本式にはこだわっていません。よいものは何でも取り入れたいので、ミックスですね。
仕事中はコワイと言われています。厳しいと自分でも思います。でも引きずらないので、オフになれば、みんなとお酒を飲んで、自分から仕事の話は一切しません。オンとオフの区別がはっきりしています。スタッフたちからすると、わかりやすくて単純に見えるかもしれませんね(笑)。
韓国語の勉強は運転中の道路標識で
韓国に来て7年、交通インフラが一番変わったと思います。特に高速道路。以前は釜山(プサン)に行くのに京釜(キョンブ)高速道路(ソウルと釜山を結ぶ全長416キロ)しかなかったのが、今はルートを選べるようになって便利になりました。
光州(クァンジュ)から大邱(テグ)へ抜ける88オリンピック高速道路は景色がよく、走っていて気持ちがいいです。雪の降る日に山中で立ち往生したりと、いろいろとありましたが、韓国内はくまなく車で回りましたね。
また、
KTX(2004年開通)が出来たことも出張が便利になったので大きな変化でした。韓国語は食べることに関してよくしゃべるのですが、それ以外は赤ちゃんレベル(笑)。
駐在当初の半年は単身だったので、まずは食べることを覚えなきゃと一生懸命だったのですが、できるようになったらあとはいいやってなりました。聞いたり、読んだりするのは大丈夫ですが、話すのは苦手です。仕事が忙しくて特別に韓国語を勉強したことはありません。
出張の時に車を運転するので高速道路の看板で覚えたんですよ。ハングルの下にローマ字表記があるでしょう?何度も通るうちに、ひとつずつ覚えていきました。よく冗談で言いますけど、本当の話です。
ポジティブさ、そして自分の目で見ることの大切さ
赴任当初は仕事の感覚もわからないし、機械は売れないし、お客様やスタッフとの認識の違い、コミュニケーションなどの問題があり、本当につらかったです。でも人の教育に力を注ぎ、お客様に価値を感じて頂くように働きかけ、そうしたことが実を結んで急激に売り上げが伸び始めた時は嬉しかったです。
年間の販売台数が200台を突破した時は、スタッフみんなで大喜びしました。日本では技術者としての仕事の範囲がきちんと決められていますが、現地法人の駐在となると輸出用の書類作成や人事など、色々と手広くやらなくてはいけない。
来た当初は技術の専門家なのに、なぜこんな仕事までしなければならないのかと思ったこともありましたが、裏を返せば日本では勉強できないことですから、チャンスをもらったと考えるようにしました。今はとてもやりがいがあり、楽しいです。
これからやりたいことは、私の今の立場、技術責任者としての仕事を韓国スタッフに引き継ぎたい。それまでは頑張りたいですね。確実に人が育っているので、今のスタッフが辞めずについてきてくれれば、3年もすれば大丈夫かなと思っています。
赴任時はワールドカップの開催年、韓流以前だったので、韓国に対する先入観が強く、反日感情を心配する周囲の声もありましたが、私は気になりませんでした。まずは行ってみないとわからない。韓国の人たちがこんなにフレンドリーで親切なこともです。
ですから、仕事であれ、旅行であれ韓国に来られる方はいろいろな先入観があったとしても、まず来て見ることだと思います。これからは日本、韓国、中国という枠ではなく、アジア人という枠で捉えるような時代に入ったと思いますね。
★玉木さんおススメのお店★
事務所のある市庁付近はオフィス街。昼ともなれば近くの会社員たちがどっと食堂に押し寄せます。玉木さんの事務所では、12時から昼食時間だと混み合うので12時30分からを正規の昼休みにしているのだそう。
ナクチトルソッビビンバ(写真中央 タコの石焼ビビンバ 6,000ウォン)はサンチュたっぷり、タコたっぷり、香ばしいご飯と甘辛いタレがよく合います。このお店ではお釜で炊いたご飯が特徴(写真右端)で、そのご飯を味わえるキムチチゲやチョングッチャン(納豆チゲ)なども人気のランチメニュー。
「カマゴル」
住所:ソウル市中区(チュング)北倉洞(プッチャンドン)18-7
電話番号:02-771-0080
インタビューを終えて・・・
事務所のスタッフの方は「仕事中は本当にコワイです」と言いつつも、オフでの飾り気のない率直なスタイルが凄くいいとおっしゃっていました。玉木さんに寄せられる信頼は絶大なようです。また、韓国料理が大好きという玉木さんは、行く先々の食堂のご主人たちと仲良くなってしまうそう。さばさばと明るい豪快さが周囲の方々を引きつけるのでしょう。今後のますますのご活躍をお祈りするとともに、美味しいお店の発掘にもぜひ、がんばってください。
SHI PLASTICS MACHINERY KOREA
住友重機械工業株式会社のプラスチック射出成形機および関連機器の販売とサービスを行う現地法人として2000年に設立。携帯電話のボタン、レンズ、コネクタ、自動車部品、食品パッケージなど多岐に渡る分野をカバーする射出成形機を販売、それらのメンテナンスや技術支援を行っている。
住所 :ソウル市 中区(チュング) 太平路2街 (テピョンノイーガ) 70-5 711号
電話番号:02-757-8656
ホームページ:
http://www.spm-northasia.com/