せっかち、なわりに…
「パルリ、パルリ(早く、早く)!」
スピード重視、せっかちで先を急ぐ人が多い韓国でよく聞く言葉だ。しかし、そんな気質と相容れない光景を街中でふと見かけることがある。それは銀行のATM(現金自動預け払い機)や公衆トイレでの並び方。日本では定番化した、いわゆる「フォーク並び」はそこにはなく、機械や扉ごとに列をなし根気強く自分の番を待っているのだ。
運よくすぐに順番が回ってくることもあるだろうが、長々と待ち続けることだってあり得るはず。決して効率的とは思えないのに、なぜ??その心理が気になるコネスト記者、早速韓国人の行列意識に迫ってみた。
韓国にフォーク並びは無い?

どの列に並ぶかはアナタ次第?!(銀行)
そんな疑問に駆られたら、確認しないわけにはいかない。ということで、まずは実際に街へ飛び出し、韓国人の並び方を観察してみた。
銀行をのぞくやいなや目に飛び込んできたのは、各ATMの前に並ぶ人々。写真のように窓口(扉)ごとに一列に並ぶ様子は、銀行のATMはほぼ全て、そのほか一部の映画館、高速道路の休憩所のトイレなどでも見かける。
自分が並んだ列がスムーズにサクサクと進めばいいが、前方で時間がかかってなかなか順番が回ってこないことだってある、この並び方。並ぶ側からしてみても、どの列に並ぼうか悩んでしまうし、同時に並んだ人に先に順番が回ってきて嫌な気分になる可能性だってゼロではない。ますます膨らむ疑問・・・。しかし、そんな心をよそに発見するのは同じようなパターンの行列だった。

扉の前に引かれた待機線(デパートのトイレ)

ごったがえすチケットカウンター(映画館)

気になるとはいえ近づきすぎ!(銀行)

待機線がないと、ダンゴ状に
(地下鉄駅)
なかにはこんな高度なテクニックも!
★ピンクのTシャツを着た女性に注目

他の列の動きをチェック

「あ、空いた!」素早く移動

最終的には別の列で手続き
街行く人にインタビュー!
思い切って聞いてみた
なぜATM(窓口・扉)ごとに並ぶのですか?
・ ATMの前はスペースがないから仕方ないと思いますよ。 (23歳・男)
・ 場所によって様々ですよ。大きな駅などは自然とフォーク並びですね。ある程度広い空間や、ロープなど並び方を誘導するものがあるかどうかで列の形が決まると思います。(31歳・男)
・ 個室の前が広くないトイレでは、入り口で一列に並ばざるを得ません。(29歳・女)
スペースなど物理的な理由でフォーク並びが不可能な場所では、機械(窓口・扉)ごとの並び方が定着しているようだ。確かに韓国の銀行のATMコーナーは、狭い割に設置台数が多い。
一方、地下鉄駅やデパートのトイレなどは、個室前の通路が非常に狭い場合が多いため、フォーク並びが主流のよう。
後から来た人に先を越されたことはありますか?
その時の心境は?
・ もちろん多いですよ~。そういう時は、あっちに並べばよかったと思いますね。別に頭に来たりはしないけど、急いでいる時はちょっと困ります。(23歳・女)
・ 他の列が空いたら自分もそっちに移動しますし、特に他人と自分との順番は気になりません。(23歳・男)
・ 並び間違えたな、と思うだけだよ。どの列に並ぶかで大事なのは、「ヌンチ(눈치;機転を利かせること)」だね。並んでいる人の表情や雰囲気で見極めるんだ。列を移動する時も同じさ。(48歳・男)
・ 待っていれば済むことじゃない。隣の列の方が早かったら移動すれば良いだけよ。(48歳・女)
・ そりゃあ、やっぱりイラ立つ時もありますよね。(31歳・男)
何と、意外にもイライラしたり腹が立ったりするという人はほとんどいなかった。皆さん、時と状況に応じて臨機応変な対応で乗り切っている様子。
フォーク並びについては、どう思いますか?
・
ソウル駅や
清凉里(チョンニャンリ)駅のような大きな駅で以前見かけました。確かに早いと思います。(23歳・男)
・ 待ち時間も減るし良いと思います。(23歳・女)
・ 余計ややこしいと思うね。目の前に(ATMや窓口が)見えてるのに、自分が先頭に来るまで待つんだろ?そんな時間があったら、とっくに用事を済ませられるよ。(48歳・男)
フォーク並びの方が効率的だと感じている人も結構いたが、特に銀行のATMの場合、実際には機械の前で並ぶことがあまりにも慣習化されていて、逆に意識されていないような気もする。
さて、それはそうと、大きな駅ではフォーク並びが実施されているとの情報を得たコネスト記者。息もつかず向かったのは地方への玄関口ソウル駅だった・・・。
ついに発見!韓国にもフォーク並びはあった
そして駆け足で向かったのは切符売り場。見つけた!これぞ典型的な「フォーク並び」!!
ロープなどに従って一列に並び、空いた窓口などに列の先頭から繰り出す様子が、フォークの形に似ていることから名付けられた、この並び方。
日本でも都市を中心に、銀行のATM、みどりの窓口、コンビニ、レンタルビデオショップ、ファーストフード店などでおなじみだ。

黄色の待機線の後ろで一列並び (ソウル駅)
こうした並び方は、早く並んだ人が損をせず、しかも順序良く空いた所に入れるということで、公平かつ合理的なのが何よりも長所。
仁川(インチョン)空港、
金浦(キンポ)空港など各空港の搭乗カウンターで実施されている様子はこれまで何度も見かけたが、ソウル駅でも定着しているようだ。
何はともあれ、行列を追い続けた長い1日は、こうして幕を閉じた・・・。
ここでちょっと豆知識

真ん中にあるのが待機線
(ソウル駅内のトイレ)
今では広く普及しているフォーク並びだが、実は日本でもまだ浸透して十数年だという。何でも米国を旅行した人たちが、現地で見事に実践されている「フォーク並び」に感心して、帰国後、自主的に広めていったとか。
「機会の平等」を掲げる米国ならではの行列文化だ。
待ち時間短縮・混雑解消に向けた様々な努力とアイディア
今回の調査結果、今のところフォーク並びが定着しているのは、常に込み合うターミナル駅や空港などに限られているものの、行列に対する意識が韓国でも急速に高まってきていることを実感した。コネスト記者が取材中に見つけた、その一例をご紹介しよう。
市民団体によるマナー向上運動

「一列並び運動」と書かれた看板
とある地下鉄駅構内のトイレに掛けられていた看板。「化粧室文化市民連帯」という市民団体が2000年からスタートしたキャンペーンだ。このキャンペーン以外にも、様々な市民団体が「一列並び運動」を繰り広げている。
番号札の配布

番号札制を採用した映画館
韓国では、銀行窓口をはじめ、郵便局や行政手続きを行う場所(町役場など)で、番号札を発券する所が日本に比べると多い。こちらも先着順でサービスが受けられる工夫だ。
大事なのは、公平と効率
銀行のATMに代表されるように、並び方の改善にはスペース拡張が必要など、すぐには対応困難な部分も確かに存在する。また、根付いた慣習だってすぐには変化しにくいだろう。しかし重要なのは、どうすれば時間のムダをなくし、公平にサービスを利用できるかということだ。誰もが気持ちよく利用できるような仕組みづくりがさらに韓国で進んでいくことを期待したい。