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韓国の伝統餅「トッ」を探る

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作成日:08.02.06
韓国の伝統餅「トッ」
アジア各地には色々な餅があるが、中国では小麦粉を、日本ではもち米を主な原料とするのに対し、その間に位置する韓国の餅「トッ」はうるち米を主な原料とする。作り方によって大きく「蒸し餅」、「つき餅」、「焼き餅」、「茹で餅」の4つに分けられる。

材料も様々でヨモギやごまを混ぜて色を出したり、果実や穀物をまぶしたもの、蜂蜜や干し柿のあんが入ったものなど、その種類は朝鮮時代の料理書に登場するものだけでも197種に及ぶ。

「トッ」の歴史は古く、青銅器時代の遺跡から「トッ」を蒸すのに使う「シル」と呼ばれる器具が出土している。三国時代、新羅時代から果実や他の穀物も原料に使われるようになった。高麗時代には上流層だけでなく庶民にも広まり、高麗時代末期には団子(ダンジャ)や煎餅(ジョンビョン)など多彩な「トッ」が登場する。

朝鮮時代には種類や加工技術が一層発達し、一般家庭でも祭祀(チェサ)茶礼(チャレ)の食べ物として様式化していった。
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薬菓、正菓、梅雀菓など珍しい韓菓がずらり
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小盤(ソバン)と呼ばれる伝統的な膳でご用意
小盤(ソバン)と呼ばれる伝統的な膳でご用意
「蒸し餅(チントッ)」
「シル」とペッソルギ
「シル」とペッソルギ
最も古い「トッ」は「蒸し餅(チントッ)」だ。うるち米を粉にして蒸したペッソルギ(白雪糕)が「トッ」の基礎といわれる。「蒸し餅」は「シル(蒸し器)」を使うことから「シルトッ」とも呼ばれ、原料にはもち米や他の穀物も使われる。

小豆とうるち米の層を重ねて蒸したパッコムルシルトッ(小豆粉餅)、うるち米に当帰(トウキ)・クチナシ・小豆・五味子(ゴミシ)などを混ぜて五色の層を成したムジゲトッ(虹餅)などは餅というより蒸しパンの食感に近い。
パッコムルシルトッ(小豆粉餅)
パッコムルシルトッ(小豆粉餅)
ムジゲトッ(虹餅)
ムジゲトッ(虹餅)
クルムトッ(雲餅)は同じ「蒸し餅」でももち米を使っているため食感もモチモチとしている。もち米の粉にナツメやインゲン豆、栗などを混ぜて蒸し、小豆や黒ごまの粉をまぶして作るこの「トッ」は断面がまだらな雲模様になるためこの名がついた。ソンピョン(松餅)は地方によって原料も形も様々だが、うるち米やジャガイモ、どんぐりなどの粉を湯で練り、中に栗、小豆、ごまなどで作ったあんを入れたものを松葉を敷いた蒸し器で蒸して作る。
クルムトッ(雲餅)
クルムトッ(雲餅)
ソンピョン(松餅)
ソンピョン(松餅)
「つき餅(チントッ)」
カレトッ
カレトッ
脱穀して粒状あるいは粉状にした穀物を蒸し、それを杵などで撞いて作るのが「つき餅(チントッ)」だ。トッポッキでおなじみのカレトッは蒸したうるち米を撞き、手で長く伸ばして作る。

うるち米を使った「つき餅」としては表面に模様木型を押したチョルピョン(押し餅)、あんを入れ半月上に形作ったサンゲピトッ(双甲皮餠)などがある。どちらも緑はヨモギを混ぜて出している。うるち米の「つき餅」は歯ごたえが硬めだ。
チョルピョン(押し餅)
チョルピョン(押し餅)
サンゲピトッ(双甲皮餠)
サンゲピトッ(双甲皮餠)
もち米で作る「つき餅」で代表的なのは「インジョルミ(引切餠)」。表面にごまや小豆の粉、きな粉などがまぶされ、餅はヨモギやヤマボクチが練りこまれたものもある。また団子(ダンジャ)類は主に中に入るあんによって呼び分けられる。あんはナツメや小豆、栗などで作り、黒ごま、松の実などをまぶし粉に使う。もち米の「つき餅」は日本の団子に近い柔らかい食感。
インジョルミ(引切餠)
インジョルミ(引切餠)
サムセッダンジャ(三色団子)
サムセッダンジャ(三色団子)
「焼き餅(チヂントッ)」
「焼き餅(チヂントッ)」は「ユジョンビョン(油煎餅)」とも呼ばれ、もち米などの粉を湯や水を加えて練ったものを油で焼いて作る。焼くとはいえ、パリパリに焼くのではなく、油を染み込ませてしんなりと火を通す感じだ。

代表的なものは季節ごとに花や木の実をのせて焼いたファジョン(花煎)でチンダルレ(ツツジ)やバラ、菊の花などが主に使われる。「プクミ」はもち米とうるち米を2対1の分量で混ぜ、冷水で練った餅の中に小豆などのあんを入れて焼く。
ファジョン(花煎)
ファジョン(花煎)
プクミ
プクミ
チャプサルグイ(もち米焼き)は湯で練ったもち米の粉を薄平たくして焼き、小豆などのあんをくるんだもの。同じ「くるみ物」でもメミルジョンビョン(蕎麦煎餅)は蕎麦粉を水で練った皮で肉や野菜などをくるむ。餅菓子というよりはむしろチヂミなどに近い。
チャプサルグイ(もち米焼き)
チャプサルグイ(もち米焼き)
メミルジョンビョン(蕎麦煎餅)
メミルジョンビョン(蕎麦煎餅)
チヂミ」と「焼き餅(チヂントッ)」の熱い関係
「焼き餅」には「ジョン(煎)」の文字が当てられたものが多いが、「パジョン(ねぎチヂミ)などは「焼き餅」から派生した、あるいはその名を語源とした料理と思われる(「パ」は「ねぎ」の意)。そう考えるとピンデットッ(緑豆チヂミ)に「トッ(餅)」という字が当てられるのも納得がいく。日本で使われる「チヂミ」という名は慶尚道(キョンサンド)で使われる呼び名だが「チヂダ(焼く)」という動詞の名詞形である「チヂム」が語源だ。「チヂミ」と「焼き餅」が密接な関係にあることは間違いないだろう。
パジョン
パジョン
ビンデットッ
ビンデットッ
「茹で餅(サルムントッ)」
「茹で餅(サルムントッ)」はもち米の粉などを湯や水で練ったものを茹で、各種まぶし粉をまぶして仕上げる。代表的なチャックリ(松の実餅)はもち米の餅に栗やごまのあんが入り、松の実の粉がまぶされる。

一般にひと口サイズで丸く仕上げたものものは「キョンダン(瓊団)」と呼ばれ、まぶし粉に使われる穀物(小豆、エンドウ、黒ごまなど)によって呼び分けられる。ユルム・タンジャ(鳩麦団子)はもち米に鳩麦を混ぜ、まぶし粉には小豆や栗などを使う。キョンダンより一回り大きく作る。
キョンダン(瓊団)
キョンダン(瓊団)
ユルム・ダンジャ(鳩麦団子)
ユルム・ダンジャ(鳩麦団子)
タルギャルトッ(たまご餅)はもち米とうるち米を半分ずつ混ぜて湯で練ったものの中に小豆のあんを入れ、たまご型に仕上げる。見た目はあんころ餅に似てるが、作り方も味も違うのがオグラントッ(縮み餅)。乾いたまぶし粉でなくあんこをかぶせるのが特徴。作る過程でうるち米の粉を湯で練ったものにあんこをかぶせて弱火で茹でると丸く引き締まるのでこの名がついた。
タルギャルトッ(たまご餅)
タルギャルトッ(たまご餅)
オグラントッ(縮み餅)
オグラントッ(縮み餅)
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地域別「トッ」の特色
咸鏡道(ハムギョンド)
朝鮮半島で最も気温が低い。粟やキビ、ヒエなどの品質がよく、それらを原料に「トッ」を作る
クェミョントッ(焼き餅)
クェミョントッ(焼き餅)
ソンギゲピトッ(松肌餅・つき)
ソンギゲピトッ(松肌餅・つき)
平安道(ピョンアンド)
以北の首都・平壌(ピョンヤン)があるこの地域では「トッ」を大きく、見栄えよく作るのが特徴
コジャントッ(つき餅)
コジャントッ(つき餅)
チョゲソンピョン(貝松餅・焼き)
チョゲソンピョン(貝松餅・焼き)
黄海道(ファンヘド)
全羅道と似た地形的特長を持つこの地域はワラを原料にした「トッ」が多く作られる
ホンイン・インジョルミ(婚姻引切餠 ・つき)
ホンイン・インジョルミ(婚姻引切餠 ・つき)
オジェンイトッ(俵餅・つき)
オジェンイトッ(俵餅・つき)
江原道(カンウォンド)
山と海があるこの地方では「トッ」の材料も豊富で西東で「トッ」の特徴にも若干の違いが見られる
パンウルチュンピョン(麹蒸し餅・蒸し)
パンウルチュンピョン(麹蒸し餅・蒸し)
カムジャソンピョン(芋松餅・蒸し)
カムジャソンピョン(芋松餅・蒸し)
京畿道(キョンギド)
ソウルを含むこの地域は「トッ」の種類も豊富で、華やかな模様のものが多い
ケソン・ウメギ(開城ナツメ餅・焼き)
ケソン・ウメギ(開城ナツメ餅・焼き)
ヨジュ・サンビョン(麗州散餠・つき)
ヨジュ・サンビョン(麗州散餠・つき)
忠清道(チュンチョンド)
両班(ヤンバン・貴族階級)と庶民の「トッ」が分けられていたが、近年その種類が減る傾向にある
セモリチャルトッ(牛頭餅・蒸し)
セモリチャルトッ(牛頭餅・蒸し)
チッケトッ(葛蕎麦餅・つき)
チッケトッ(葛蕎麦餅・つき)
慶尚道(キョンサンド)
慶尚道(キョンサンド)
面積の広いこの地域では土地ごとに特色がある。尚州(サンジュ)や聞慶(ムンギョン)では栗、柿、ナツメの入った蒸し餅が、古都・慶州(キョンジュ)では「祭祀(チェサ)トッ」が有名だ
チャックァトッ(雑果餠・蒸し)
チャックァトッ(雑果餠・蒸し)
チェサトッ(からむし葉餅・蒸し)
チェサトッ(からむし葉餅・蒸し)
全羅道(チョルラド)
穀物が最も多く生産されるこの地域では料理だけでなく「トッ」も豪華で味も格別だ
済州島(チェジュド)
四方を海に囲まれているため米よりも雑穀がよくとれ、蕎麦、粟、芋、麦などが主原料。米を使った「トッ」は貴重で祭祀などに出される
カムジャトレトッ(じゃが芋餠・つき)
カムジャトレトッ(じゃが芋餠・つき)
オメギトッ(粟餅・茹で)
オメギトッ(粟餅・茹で)
時代や土地とともに発展を遂げる「トッ」
ほかにも祝い事や名節にはその時期にあった「トッ」が出される。ひと口に餅といっても日本のそれと同じように地域や時代などによって様々だ。現在韓国では伝統的な「トッ」だけでなく、ケーキや西洋菓子の新しい要素を取り入れたものや「トッ」を楽しめるカフェなど新しい文化も登場している。西洋文化の流入で衰えつつあった「トッ」文化が、逆にそれらを取り入れて大衆化して行っているところもまた興味深い。これらもきっと「トッ」の歴史に残っていくのだろう。

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掲載日:08.02.06
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