韓国旅行「コネスト」 ソウル路地裏案内(3) 「彌阿里 占星村」 インタビュー | 街歩きシリーズ
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ソウル路地裏案内(3) 「彌阿里 占星村」 インタビュー

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作成日:11.01.06
路地を見つめる人
インタビュー:ホン・ギス氏(占い師、「ホン・スソン作名所」店主)
「ご来店ありがとうございます」チャイムのベルとともに、機械録音された女性の声が響く。看板がないと通り過ぎてしまうであろう外観だけでなく、内部も一般家庭と変わらない。だが漂う気配は何か異なる。占い館「ホン・スソン作名所」の店主であるホン・ギス氏は、そんな空間の中心にひっそり佇んでいた。四柱推命を基にした姓名判断を得意とし、看板にも自らを鑑定してつけた別名を掲げる。彌阿里に住んで30年、70歳を迎える古老に、彌阿里占星村の過去・現在・未来を聞いた。
繁盛への期待と、弱者としての事情
先天的な視覚障害を抱えるホン・ギス氏は、10歳の頃より易学を志した。厳しい学習を経て20歳で開業。彌阿里占星村に居住し始めた1978年には、既に多くの占い館があったという。「韓国では店が一カ所に集まっている方が繁盛するといいますが、占い館も同じ。それで私も彌阿里で試してみようと移り住みました。所属する「大韓盲人易理学会」の会員が多く、周囲が知った仲だという点もありました」
また現在はニュータウン開発も進む彌阿里だが、当時は一足早く開発が進む別の地域から追い出された、低所得者層の住む街として有名だった。「彌阿里は高架があるため埃が多く、空気がよくないので人々が住みたがらない。それで社会的弱者である視覚障害者が居住し始めたという事情もありますね」
かつては外国人の観光コースとしても
「占いなら彌阿里へ」と、その名を知られた占星村。それは韓国国内のみならず海外へも届いていたという。「団体旅行が一般的だった80~90年代は、日本やアメリカ、香港などからも観光バスで大勢の客が占星村へ来ました。知名度が高いのと、占い師の数が多いので訪れやすかったのでしょう。私は外国語ができないので、通訳を介して鑑定をしましたよ」
風土や文化の違いで鑑定が難しい場合もあった。「韓国と日本では近親婚に関する法律が異なり(※韓国は8親等以下、日本では3親等以下の婚姻は認められない)ますが、それに関わる結果が出るとする。その場合、お客さんの国により解釈が全く変わってくるので困りました」。それでも人々の悩みは国に関わらず共通のものが感じられたという。
「具体的な悩み」より「長期的な運命」
「私は四柱推命と六爻(ユッキョ)も専門としますが、昔は六爻が好まれました。家族が病気になったとか、ものを無くしたなど、現実に迫った相談を解決するのが六爻だったためです。しかし最近は、より大きな運命を鑑定する四柱が好まれます。長期的にみて、自分がどう生きていくのかを知りたい傾向にあるのでしょう」50年以上の鑑定歴から、客層の変化をこう語るホン・ギス氏。彌阿里に訪れる客が以前より少なくなった理由の一つにも、これが関わるという。六爻は悩みの種ができるたびに何度も鑑定に来られるが、四柱は一度行なうと頻繁に足を運ぶ人が少ないためだ。
店も、新たに訪れる者は減ったが今も根強い常連客はいる。やはりそうした中には印象深い客も多い。「生まれた子どもの姓名判断をした家族が、評判がよかったので、2世、3世になっても訪れることがあります。また、離婚を考えている人の四柱を鑑定して「状態を継続するべきだ」と伝えたら、何ヶ月か後に「別れずに今もうまくやっている」と報告してくれたこともありますね」
現代における「彌阿里 占星村」とは
科学や物質主義が発達した現代で占いは役割を失ったのでは。占星村に人足が落ちた一因を、こう分析する人も少なくない。だがこれら意見に対する古老の考えは明朗だ。「彌阿里で多くの占い師が専門とする易学は東洋哲学の考えにのっとっていますが、そこでは占いも、また科学や医学も同じ思想につながります。その体系を追究することで、運命を知ると同時に科学も発達してきたという考えです。その意味では科学にとっても、根源が同じ占いは無視できない存在だといえるでしょう。宗教者にも、言葉では占いを迷信だといいつつ、気になることがあって店を訪れる人もいますよ。国や時代は変わっても、自分の未来や運命を知りたいという人々の欲求はなくなりません。それを考えると、占星村のような場所も消えることはないだろうと思います」
彌阿里を歩いたときに感じた魅力は、目で見えるものよりも、空気感そのものにあった。訪れる人々の喜怒哀楽、悩み、また占い師自身の生活。それら余韻が、数十センチほど開いている占い館の扉から伝わってくるようだった。現代社会の中で消えゆく路地のように扱われることも多いが、現状はもっと交錯している。それでも彌阿里は静かで穏やかだ。
長い峠のように先がわからない運命を前にしたとき。ふと立ち止まったその足元が揺らいだとき。彌阿里占星村の路地では、なにかが「みえる」のかもしれない。
※本企画でご紹介した路地は一般の人々の生活の場です。ご関心をもたれた際は、プライバシー等に対する十分な配慮をお願いいたします。
※記事中で視力・視機能に障害をもつ人々を指す総称としては「視覚障害者」という言葉を用いました。なお一部には韓国語の直訳である「盲人」という表現も含まれています。
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