曹渓寺というか、仏教中央博物館の裏手に位置する通りに「無茶軒」という店があるのが、いつも非常に気になっていました。
外観的には「廃業した喫茶店」なので、「無茶な経営ゆえに閉店したのかも」「というか、喫茶店なのに『茶が無い』という店名は何なのだろう」と色々考えていたのですが、1月中旬のある日、韓国人らしき高齢女性2人組がドアを開けて入っていく姿を目撃
好奇心を抑えられず、後を追って入店してしまいました。
ドアを開けると、店内にいた6、7人の客と、初老の店員女史の視線が一気にこちらに向きました。
じつは「会員制」とか「常連客以外立ち入り禁止」の店でしょうか。
店員女史に「あの、営業してますか」と訊くと、「え?」・・・通じません
その時、ソファ席にいた、客なのか店の関係者なのか分からない芸術家風の高齢男性が「日本語、可能。まあ、座って(と、自分の向かいの席を指した気が)」と発言。
とりあえず、芸術家氏とは別の卓に着席しましたが、メニューらしきものがありません。
近付いてきた店員女史に「メニューは・・・」と訊くと「こちらにございます」と、入口近くにあった立て札を指します。
店の外観的にはコーヒー・紅茶なのに(実際、コーヒーはあるようですが)、サンファ茶、ナツメ茶、カリン茶など、伝統茶メニューです。←入店した時から、魚の干物を焼くような匂いが軽く漂っていたので、じつは料理もあるのかもしれません。そういえば、店名看板には「レストラン」とあった気が。
価格表示のないメニューに「ぼったくり店に飛び込んでしまったか!」とビビったのですが、茶類の値段は「5000ウォン」とのこと。普通というか、伝統茶店よりは安めです。
サンファ茶を注文してから、あらためて店内を見ると、メニューの横に置かれたギター、歌声喫茶風の音響機器、テーブルのシート下にある詩や白黒写真、夜はバーになるらしき古風なカウンター・・・と、すごく独特な雰囲気です。レトロを売りにするモダンカフェとはまた趣きが異なるように思われます。
先ほど入店した女性2名と「日本語、可能」の芸術家氏を含め、店内にいるのが全員高齢者なことに今さら気付きました。周囲のコーヒー店がどこも若者やカップル優勢なことを考えると、かなり特殊な客層です。
出てきたサンファ茶は、意外に本格的な姿でした。「苦味もわりと本格的かも・・・」という客の表情を見た店員女史は「蜂蜜、お持ちいたしますか。ポルクル、でございます。お分かりでしょうか」と心配顔です。←結局、蜂蜜を入れて再スタートしました。
サンファ茶を完飲し、体が温まったところでカウンターに会計に行くと、店主の名刺が置いてありました。
店主の肩書は「詩人」とあります。
純喫茶風のレトロな雰囲気も、それに伴う数々の謎も「そうか、詩人の店なのか」で、妙に納得できた次第です。
店員女史は、控えめな笑顔で「サヨナラ(←日本語)」と送り出してくれました。
正直なところ、万人にオススメとは言いがたい店ですが、首都の中心部にぽっかりと存在する「異空間」に足を踏み入れてみたい方はぜひ一度・・・。