君主だけが座ることのできた御座の背後に控えるのは「日月五峰図(イルウォルオボンド)」。月はここにも隠れていました。太陽と月、5つの山嶺が対称に連なった配置は、天地全てを治めるという王の象徴です。屏風がその席を守り続けているからでしょうか、仁政殿の中は貴い空気で満たされています。
近代まで実際に使用されていた昌徳宮ですが、電気が入ったのは1908年。それ以前の照明は蝋や油でとられていました。特別な夜の散策では、そんな気分も
愉しみたいもの。月と提燈のほのかな灯りの中で、宮殿はまた違った表情を見せてくれるでしょう。
天は円く地は四角く─「天円地方」という古来の宇宙観。宮殿の奥に潜んだ秘苑で出会いました。丁寧な方形につくられた芙蓉池が映し出すのは、宙合樓(チュハムヌ)の建物や木々だけではありません。闇の色や星の動き、森羅万象に思いを馳せて。
宮廷儀式における演奏は、君子や神に捧げる贈物の意味があったといいます。散策の終着点、演慶堂(ヨンギョンダン)では名匠が奏でる神聖な調べが静寂に響きます。伝統茶とお菓子を手に月夜の宴にご参席ください。
24代王・憲宗(ホンジョン)が後宮(フグン)のために建てた楽善斎(ナクソンジェ)は、奥ゆかしい女性美が漂う空間。それが際立つのが、特別にあつらえられた10余種類の飾り窓です。幸福を表すメドゥブ(組紐)や神聖な動物であるコウモリを抽象化した装飾など。一つひとつが王から后へあてられた恋文です。