韓国最大の日系コミュニティー、ＳＪＣの長井理事長

【ソウル21日】オフィスに足を踏み入れると、一風変わった地図が目に入って来る。「この地図面白いでしょう」。日本と韓国の間の海を中心に据え南北に回転させた富山県発行の「環日本海諸国図」。地図のそばでほほえむのは、在韓日本企業を中心とした韓国最大の日本人コミュニティー、ソウルジャパンクラブ（ＳＪＣ）の理事長・長井正成さん（５８）。 長井さんは新しい視点が見えてくるような地図と同様に、日韓が新時代に入ったことをかみしめながら１月末で理事長職を退任する。

「日本と韓国は外国というより国内の隣の地方のように感じる。一つの共同体のようなもの」だと何回も強調する。その言葉から韓国への愛情がひしひしと伝わってくる。長井さんは大学卒業後に三井物産に入社し、約３５年間、同社に勤めている。商社という仕事柄、韓国関連の仕事に取り組んだことはあったが、本格的に韓国に興味を持つようになったのは初めて韓国に出張した１９８６年からだった。その後、韓国企業と展開するさまざまなプロジェクトに加わった。そして２００９年４月、三井物産が全額出資し設立した韓国法人、韓国三井物産の社長に就任した。

ＳＪＣの理事長になったのは翌年の２０１０年１月だった。ＳＪＣは１９９７年、日本人会やソウル商工会、ＪＶ（ジョイントベンチャー）会の３団体が合体し発足したコミュニティーで、日本人学校も運営している。２０１０年１２月現在、個人会員１６７８人、法人会員３６２社が入会しており、韓国の日本人コミュニティーとしては最大規模。実際に韓国で活動しているとされる日系企業約７００社のうち、半数はＳＪＣに入っている。

ＳＪＣの基本目的は▼会員相互の親睦（しんぼく）と福祉の向上▼日韓両国民の親善と韓国社会への貢献▼両国経済の円滑な発展の促進――となっている。入会資格は個人会員の場合、日本国籍者でソウル市、またはその近郊に居住する人としているが、ルールを変更し、準会員の形で居住先や国籍に関係なく会員を受け入れていくという。

長井さんはＳＪＣの活動に貢献したい気持ちで理事長就任を引き受けた。手弁当の理事長職は、ことし１月末で１年の任期が終了する。ＳＪＣの理事長を務めた感想を尋ねると、「良かったですね」の一言で表す。個人のみならず会社を挙げてＳＪＣの活動に貢献できた上に、両国の友好のためにも尽力できたことがうれしかったと振り返った。昨年は韓日併合から１００年を迎えるという節目の年で、韓国内で反日感情が高まることも懸念されたが、８月の菅直人首相談話や韓国側の協力などで、両国関係はむしろ、緊密になったと評価している。次の１００年に向けた重要な年を体験でき、非常に意味深かったという。

両国関係を「兄弟」と表現する長井さんは、昨年、両国関係がより親密になったことについて、「韓国は元気があるため、弱くなっている兄弟の日本に『頑張れよ』と、応援してくれる気持ちがあったのかもしれない」と説明した。

長井さんは今後、貢献していきたい分野として人材の交流を挙げた。資源の乏しい両国が世界のリーダーとして成長していくため、日韓にとって最大の財産は「人」だと強調する。韓国で取得した資格が日本で通用し、日本の資格が韓国でも通用するなど、相手国で自由に働ける環境づくりのほか欧州諸国のように税金問題なども解決できればいいと思っている。両国の経済連携協定（ＥＰＡ）も一つの考え方になるものの、それより広範囲な取り組みの必要性も感じている。お互い刺激し合い、ライバルとして競争しながら、人材を相互に交流できる社会づくりに向けて提言していきたいと語った。

以前はビジネスのための訪韓だったため、韓国の本当の歴史や文化をあまりにも知らなかった。「知れば知るほど、（両国は）兄弟ではないか。韓国に住んでいる日本人の多くもそういう気持ちではないかと思う」と長井さん。（聞き手＝金泰均）